「この少女漫画に描いてたんだよね。男に“おいで”とか言われて主人公が胸に飛び込んでるシーン」
呆然としていた私をバカにするように、ナオは意地悪な笑みを浮かべ、さっきベッドに置いた漫画を私の目の前に持ち上げた。
その漫画は溺愛ものの話で確かに途中で何度か『おいで』と主人公を呼ぶシーンがある。
「どういう意味?」
「うん。これをリアルでやったらどうなるのかな?と思って。実験?」
「な、何それ……」
「現実ナメるなよ、と思ってたけど。本当に来るもんなんだね」
やーい。引っかかった!と言わんばかりにナオは私にそう言って唇の端を釣り上げた。本当の本当に意地悪な顔だ。私のトキメキを返してよっ。
「酷いっ!!騙したの!?」
「別に。カンナの真似をしただけだし」
「はい?真似?」
「今どき少女漫画を参考に駆け引きするなんて珍しいよね」
「うっ……」
「どうせ涙目で謝れば許して貰えると思ったんでしょ?甘いわ」
自信満々に言い、ナオは心の底から楽しそうにケラケラと笑う。ナオが笑う所為で私の体も小刻みに揺れてるし。