「ただいまー」
 家に帰ると、私は手洗いうがいをした後、真っ先にベランダに向かう。
 いつの間にか習慣化しちゃったこの行動。
 そこには、いくつかの洗濯物と二つの小さな植木鉢がある。
 一つは、お母さんのもの。
 薄い紫色で両手で包み込める程の小さな植木鉢。今は土が入っているだけだけど、お母さんはとても大切にしていて、常に汚れ一つ付いてない。
 もう一つは、私のもの。
 薄いピンク色でこれも両手で包み込める程の小さな植木鉢。丸くころんとしたフォルムで、可愛い見た目だから、かなり気に入ってる。
 この植木鉢には、夏頃に種を植えたんだけど、なぜかこんなに寒い中、つぼみをつけている。
 街を見下ろすと、目に入る木という木々全ては枯れていて、冬の寒さを引き立たせている。
 このつぼみの生命力すごすぎだよね。
 少し油断しただけで枯れてしまいそうだから、こうやって毎日欠かさず様子を観察している。
 朝に水をあげてから学校に行ったのに、冬場だからすぐに乾燥してしまうみたいで、もう土はかさかさしている。
 銀色で細い注ぎ口のじょうろを手に取り、蛇口をひねり、水をくむ。
 丁寧に水をあげながら、私はつぼみに向かって話しかける。
 「こんなに寒いのによく頑張ってるね。花開く日を楽しみにしてるよ」
 そう言って私は微笑みかけた。
 植物に話しかけるなんて変なのって思うかもしれないけど、大事なことなの。
 そう。あの日お母さんが教えてくれたから。