私には、彼氏がいない。
 私は"運命の人"とやらが突然目の前に現れることを今だに信じている高校二年生のまりん。
 目の前でお弁当を一緒に食べている友達の凉香(すずか)には、もうすぐ付き合って一年が経つ彼氏がいる。
 隣でお弁当を一緒に食べている友達の優乃(ゆの)には、最近いい感じの人がいるらしい。
 私は…?
 なんでみんなには現れてるのに、私の前には現れてくれないの。
 不意に窓の外に目を向けると、多くの枯れ木が目に入った。
 「なんで私だけ良い人いないのかな」
 ぽつりと呟く私に二人が視線を向けた。
 「決まってるでしょ。理想が高すぎんのよ」
 コロッケを口に頬張りながら凉香は言う。
 「そーだよ。はい、まりんの理想の人は?」
 優乃は呆れた顔で聞く。
 うーん、そうだなぁ。と斜め上を見ながら私は言った。
 「かっこよくて、優しくて、話が面白くて一緒に居て楽しくて、一途で、私を溺愛してくれる人」
 私は頬を両手で押さえてその理想の人を想像してみる。思わずうっとりしちゃうほど素敵な人。
 「はい出た。それ言ってる限り彼氏できないよ。私が断言するわ」
 冷めた目で私を見る二人。
 「なんてこと言うの。今はその時じゃないだけで、いつかは私の前に現れるんだもん」
 少し拗ねてみせる。
 「じゃあ聞くけど、まりんは可愛くて、優しくて、話が面白くて一緒に居て楽しくて、一途で、彼氏を溺愛するって全部当てはまんの?」
 「そ、そう言われると…たしかに別に特別可愛いわけでもないし、すぐ怒るし、どっちかというと話聞く側で提供しないし…一途くらいかな、当てはまんの…わあぁぁ」
 思わず頭を抱えた。
 自分で言ってて悲しくなってくる。 
 二人の言う通り、理想が高すぎるのかなぁ。
 そんなスーパーな男の子なんて存在しない気がしてきた。
 「まりんはさ、現実見たほうがいいって、絶対。人の話ちゃんと聞いてくれるし、愛嬌もあるから密かにまりんのこと好きな人いっぱいいるんだよ」
 そんなこと彼氏持ちに言われてもなぁ。悲しい心の傷が余計にえぐられる気がする。
 「そうそう、まりんが気づこうとしてないだけで、まりんに愛を注いでくれる人はたくさんいるって」
 恋愛欲が満たされてる人間はやっぱ違うな。心にゆとりがある。
 「いいよそんな、気遣ってくれなくても」
 あんまりにも深刻な雰囲気になりそうだったから、私はへらっと笑って言った。
 それにね、と凉香は言う。
 「まりん自身がさ、好きー!って思える人に出会えたら、何かが始まるよ、きっと」
 そう言って、ばちっと音が鳴りそうな完璧アイドルみたいなウインクをした。
 「そっか。そうだよね」
 私を好きになってくれる人を探すんじゃなくて、私が好きって思える人を探すんだ。
 私も二人みたいに、好きな人がいて毎日が楽しく弾むような生活を送ろう。
 「よし、頑張ろ!」
 気合いを入れて、私は勢い良くお弁当箱を閉めた。
 教室が少しだけ明るくなったように感じた。