「こんなオレにも話しかけてくれる城西さんが、一年の頃からずっと好きでした。付き合ってください!」

「ごめんなさい。花深くんのことは好きだけど、そういう好きではないんです。だから、期待には応えられないかな」


花深王太、高校2年生。
夏休み前に告白して、見事に振られました。


オレを振って気まずそうにしてらっしゃるのは、同じクラスの城西姫花さん。
絵に描いたような高嶺の花でオレとは絶対に釣り合わない清楚系美人。
学園のいわゆるマドンナのような存在で、オレのように告白した男子は大勢いただろう。
ただ結果はお察しの通り、成功者などいない。

そんな高嶺の花の理想の男性像、それも全く明かされていないため学園の男子は日々自分磨きにいそしんでいる。
まぁ少なくとも、こんなふうに告白してくる男子ではないことは確実だろう。
目の前の彼女はこの後どうしたらいいのか分からず固まっている。…自分からやっといてなんですけど、すみませんオレにもこの先どうするべきなのか分からないです。

「…えっと、用事ってこれで終わりですよね?私はこれで…」

しまった!オレが先に切り出さなくちゃいけないのに、あろうことか城西さんにめちゃくちゃ気を使わせてしまった!
結局オレは気持ちを伝えるだけ伝えて終わるのか…?

「……あのっ!!」

「あれ?花深に城西さん、こんなところで何をしてるのかな?」

最後に勇気を出して振り絞った一声はある男によって遮られた。
振り返った先には、

「ゲッ!?藤宮!!!」
「ゲッて酷いなー花深。化け物を見たような反応はしてほしくないよ」

こいつは藤宮由紀。この学園で唯一城西さんと釣り合うと言われているやつだ。成績は学年一位、運動神経抜群、おまけに顔がいい。
サラサラの金髪からのぞく透き通るような浅葱色の瞳が、典型的な王子様のようだと学園中の女子から大人気なのだ。
ちなみにあだ名は「由紀様」で女子からは崇拝、男子からは冷やかしの意味で呼ばれている。

「で、何しに来たんだよ。ユ・キ・サ・マ!」
「いやだから、それはこっちのセリフだって。校舎裏にゴミを捨てに来たのにめちゃくちゃ通りづらくて困ってたんだからな。俺は質問に答えたんだから、今度はそっちの番だぞ。何してたんだ?」

流石にオレも答えなくてはならない状況になってしまった。しかし、オレはこいつに告白したことを絶対に言えない事情がある。そもそもイケメンな藤宮に失恋経験があるのか?告白されまくりのやつに失恋の意味がわかるのだろうか?とてつもなく言いづらい…でも、告白した側である以上オレが伝えなければ!

「告白ですよ」
「そうそう!オレが城西さんに告白してたんだよ……へ?」

オレが伝えるよりも前に城西さんがサラッと発言した、恥ずかしがることも全く無く。
そりゃあ城西さんからしてみれば好きでもなんでもない男なんだから、告白されて頬を赤めろと言うほうが難しいか。

「ふーんそうなんだ、花深が告白ねー…振られたんだ」

ニヤッとしてこちらを見てくる藤宮にイラつきながらも、顔の良さに感心してしまう自分が悔しい。

「わ、悪いかよ!」
「いや、別に。そっか…」

そう言いながら藤宮は城西さんの方を見て、ニコッと微笑んだ。

「ごめんね、告白の邪魔して。俺はそろそろ行くね」
「…待って!」

そのままゴミ捨て場に行こうとする藤宮の腕を城西さんが掴んだ。

「私が好きなのは貴方なの!王子様みたいな藤宮くんが好きです!付き合ってください!」

………あれ?なんか目の前で新たな告白始まってる?いやでも藤宮は恋愛に興味ないって言ってたし、断るよな!

「えっと、俺、城西さんのことそういう対象として見てなかったんだよね…」

だよな!ってことは断わ…

「だから、友達…でもいいかな。ほら、俺まだ城西さんのこと全然知らないし」

はい?友達から!?そんな曖昧な感じ断られるに決まって…

「藤宮くん…!これからお友達としてよろしくお願いします」
「嫌じゃなかったら敬語外しなよー、同い年だし友達なんでしょ」
「うふふ、じゃあ…これからよろしくね!あ、ラインやってる?」
「うん、QRコード出すね」

嘘だろ、告白が失敗したうえに目の前で好きな子が別のやつに告白して親密になってる…。
好きな子とライン交換なんて羨ましい。

「早速今度の日曜日に駅前の映画館で新作のあの映画観に行かない?」
「あーあのコメディ映画?いいよ、丁度俺も観たかったし」
「決まり!詳しい時間は後でラインするね。また後でね藤宮くん!…花深くんもさようなら!」

さらにトントン拍子で話しが進んでいき、あっさりデートの約束まで済ませてしまった。

悔しい、あいつは城西さんが…いや、女子が思ってるほど爽やかな王子様系男子じゃないのに!

大きな声であの秘密をぶち撒けたい…!!




『藤宮由紀はただのクズ』なんだってぶち撒けたい!!



でもそんなことしたら…

「お前、城西に秘密バラそうとしただろ」
「ま、まさか〜そんなことするわけないじゃないか〜!やだなぁ藤宮くん!…てか、本人の前で呼び捨てにして大丈夫なのかよ!?」

『王子は女子のことは呼び捨てにしない』とか『王子はお前なんて使わない』とか、同級生の女子が勝手に言ったせいで中3の頃から続けてることらしいが、うっかり忘れることもあるんだな。
これならオレがバラす必要なかったな!
さぁ、理想の王子像が崩れて城西さんもガッカリしてるはずだし、そこを励まして好感度アッ…


「ちなみに、城西さんならお前がぼーっとしてる間にるんるんで帰ったぞ」


ズコーー!!

思わずズッコケたオレを見下ろすようにして藤宮が立った。

「俺の秘密がバレなくて残念だったな、そんなとこもキチっとしてる完璧男でゴメンな〜w」

くそ…、こいつに勝てる日なんか一生こないんだろうな。



藤宮はズッコケたオレの背中の後ろと膝の下に腕を回して、軽々と持ち上げた。
身長差があるとはいえ、よく持ち上げられるな。
って、関心してる場合じゃない!

「おい!これお姫様抱っこだろ!恥ずかしいからおろせ!!!」
「倒れてたから起こしてあげたのにひどいなー、それに誰もいないからいいじゃん♪」

こいつ…!!人の気持ちも知らずに!!

「なぁ王太、俺という恋人がいながら告白するなんて…結構怒ってんだからな」

おい、勝手に恋人を自称するな!!

オレだって本気で怒ったぞ…お姫様抱っこされたことで顔の距離が近くなったし、頭突きができるんじゃ…!!
勢いをつけて…よし!!!

「お、今の風涼し…!」

思い切り頭を前後に振ったのに、藤宮のおでこには微妙に届かなかった。
しかも風の流れに合わせて藤宮が首を曲げたので、本人は頭突かれそうになったことに全く気づいてない。


「よし、そろそろ帰るか…え」
「あ………」


藤宮がこちらを向き直したことであの王子顔が目の前にきてしまった。
頬が一気に熱くなっているのが鏡を見なくても分かる。



そして、そんな王子の顔も何故か赤くなっていた。



「あれ、なんで赤く…ンギャッ!!!」


藤宮はオレを地面に落としてスタスタと歩き出した。

「何すんだよ!自分から抱っこしたくせに!」

「…う、うるさい!いいからカバン取ってから帰るぞ」

この、自分勝手野郎!!!!




「急にお前の顔があったらドキドキするに決まってんだろ、バカ王太」




ん?流石に声が小さすぎてなんて言ったか分からなかったな。


「今なんて言ったー?小さすぎて聞こえんかったー!」
「お前に向けて言ってないから安心しろ!」

オレたち以外に誰もいないんだからオレ以外あり得ないだろ。



オレのこと恋人だとか意味わかんないこと言ったり、ほんと変なやつ。