――拝啓、七歳の私をエレスト神殿に置き去りにして男と逃げたお母さん、お元気ですか?

 私は戸籍も持たない下民なので、神殿での扱いはあまり良いとは言えないものでした。

 どんなに働いても労いの言葉一つもらえず、意地悪な巫女見習いや巫女に虐められ、雑用ばかり押し付けられる日々。

 十三歳になってからは最前線での救助活動を命じられ、私は戦闘に巻き込まれて死ぬかもしれないという恐怖と戦いながら大陸中の戦場を回りました。

 アンベリス王国、ロスタリア帝国、オーラム共和国――ベルニカ大陸にある三国全てに行き、『戦場の天使』とか『放浪巫女』とか呼ばれたんですよ。

『放浪巫女』はともかく『天使』は恐れ多いですし、何より恥ずかしすぎるので止めて欲しかったですが。

『天使』というあだ名のせいでとんでもない美少女を期待されるのか、初対面の人に露骨にガッカリされる悲しみがわかります?

 ともあれ。
 二年後にようやく帰国を許され、エメルナ皇国に戻って平和な日々を送っていると、魔物との戦闘で重傷を負った皇太子様が神殿に運び込まれてきました。