ついにやってきた体育祭本番。
俺の出番は、次の次だ。
「一応、勝ち狙ってくる」
「おいおい、そんな夢無いこと言うなよな。
どうせなら勝ってこいよ」
「へいへい」
有難いことに天気は曇り。
今日1日、暑さに負けることは無さそうだ。
「次の競技に出場する選手は準備してください」
聞きたくないはずなのに、自然とアナウンスが大きく聞こえる。
「俺の中の俺はやる気満々ってか」
ゆっくり待機所に向かうと、俺以外の生徒は整列を終えていた。
「君、急いで」
「あっ、すみません」
先生に急かされ、俺は渋々グラウンドを走る。
「あっ、柚! 遅いよ!」
「ごめんごめん。道混んでてさ」
「それ、車移動でしか聞いたことないよ……」
やはり、昨日は俺の勘違いだったらしい。
どっからどう見ても、あゆはいつも通りだ。
「ねぇ、入場する時もバンド付けてかない?」
突然あゆが言った。
「えっ、なんで?」
「なんか変に緊張しちゃってさ、本番上手く走れない気がして……えへへ」
実にあゆらしくない提案だったが、自分のアップも兼ねて俺は了承した。
「最後の競技は、クラス合同の二人三脚です。選手入場」
最悪のアナウンスだ。
頼むからやらかすなよ、俺。
「よーし、絶対勝つよ!」
「ベストは尽くすよ」
「うん!」
曲に合わせて駆け足をし、選手入場を終えた。
「柚うううううう! 絶対勝てよおおおおおおお!」
第1走者は俺たち1年生。
「あいつうるさいな」
「いいじゃん! 柚のために全力で応援してくれてるんだよ!」
はなから集中などしていないが、負けるのは嫌だ。
「それじゃあ準備してね」
「「「はい」」」
返事をし、俺たちは白線に並んだ。
ゴールテープまでは30m、ミスなく走れればワンチャン優勝出来る……かも。
「みなさーん! 応援の力で、自分のチームを勝たせましょうねー!」
「「「おおおおおおおお!」」」
凄い応援だ。
ちなみに、俺のクラスのポイントは今60ちょうど。
1位の6組に勝つには、優勝の4ポイントが必須である。
「柚うううううう! 頼むううううう!」
ヒロの声って、なんでこんなに聞こえるんだろ。
「あっ、そうそう。一応俺、優勝狙ってるから」
俺がらしくない言葉を言ったその時、1人の女子生徒が俺の名前を呼んだ。
「柚くん! 頑張ってー!」
この可愛らしい声は、つい先日出会ったばかりの夏芽ちゃんだ。
「あ、あの子って……」
あれ? 急にあゆの様子がおかしく……。
「位置について、よーい」
えっ、嘘でしょ……?
ちょっ待……。
「ドン!」
スタートの合図が鳴り、生徒がゴールテープ目掛け駆けていく。
「ねぇ、柚?」
「えっ、なに、出発しないの?」
「あっ、そうだね」
俺たちは完全に出遅れた。
そりゃそうだ。
スタートすらしていないのだから。
「それでさ、あの、その……」
「なに、全然分かんないんだけど」
「だからね、その……」
あーこりゃ、1位は無理だな。
ごめんよ、ヒロ。
「あーもういいや!
柚はあの子と付き合ってるの!?」
「……はっ? 急に何の話?」
「だってだって、この前告白されてたじゃん!」
どうしてあゆがその事を知ってるんだ?
じゃなくて、なんで今?
「それ、今じゃなきゃダメ?」
「うん! 気になって集中出来ないもん!」
待てよ。これ、1位あるぞ?
「はぁ、全然付き合ってないよ。
だって俺、他に好きな人いるし」
「えっ、誰……?」
「えー、勝ったら教えてあげる」
「分かった。絶対勝つ」
その時、身体の危険センサーが俺に言った。
「足を全力で回さないとどこか壊れます」
だってさ。
「おりゃあああああ!」
「おりゃあああああ!」
あゆに負けじと、俺は全力で足を回した。
まだ死にたくはないからね。
するとその結果……。
「優勝は1組2組ペアーーーー!!!」
「「「うおおおおおおおお!」」」
なんか凄いことになった。
「柚、やったね!」
「あっ、うん」
実感がわかない。
俺は今本当に、優勝したんだろうか。
「勝利のハイタッチ!」
「いえーい」
ジャンプした拍子に、足のバンドが外れた。
どうやらギリギリだったみたいだ。
とそこへ、うるさい足音が1つ。
「柚うううううう!」
「うわっ、なんかキモいやつ来た」
死角から抱きつこうとしてきたヒロをかわした俺は、頭を軽く叩いてやった。
「痛てっ、酷いぞ柚! せっかく優勝の立役者を褒めたたえてやろうとしたのに!」
「やだよ。目立ちたくないし」
これは心からの本音だ。
「ふっふーん、残念ながらそれは無理みたいだぞ」
「えっ?」
「だってもう、1組のヒーローじゃん」
気づけば、1組の生徒全員が俺を囲っている。
「じゃあみんな、一斉に行くぞー!」
「「「うんっ!」」」
「えっ、何されるの……」
嫌な予感がする。
それも今世紀最大の?
「そんなの決まってんだろ……胴上げだー!」
「「「わっーしょい! わっーしょい!」」」
なぜだろう。
目立ちたくなかったはずなのに、俺は今確かに高揚感を覚えている。
「な、長くない……?」
「まだまだ行くぞー!」
「「「うおおおおおお」」」
あー、真剣にやってよかった。
そんな風に思える日が来るなんて。
「あゆちゃんおめでとう!」
「ありがとう! それより聞いて!」
「ん? どうしたの?」
「柚、誰とも付き合ってないんだって!」
「へ、へぇ、よかったねぇ」
(体育祭は二の次なんかい。
まぁ、幸せそうだしおっけーか)
俺は体育祭が嫌いだ。
目立ちたくない俺がヒーローになれてしまう、そんな体育祭が嫌いだ。
俺の出番は、次の次だ。
「一応、勝ち狙ってくる」
「おいおい、そんな夢無いこと言うなよな。
どうせなら勝ってこいよ」
「へいへい」
有難いことに天気は曇り。
今日1日、暑さに負けることは無さそうだ。
「次の競技に出場する選手は準備してください」
聞きたくないはずなのに、自然とアナウンスが大きく聞こえる。
「俺の中の俺はやる気満々ってか」
ゆっくり待機所に向かうと、俺以外の生徒は整列を終えていた。
「君、急いで」
「あっ、すみません」
先生に急かされ、俺は渋々グラウンドを走る。
「あっ、柚! 遅いよ!」
「ごめんごめん。道混んでてさ」
「それ、車移動でしか聞いたことないよ……」
やはり、昨日は俺の勘違いだったらしい。
どっからどう見ても、あゆはいつも通りだ。
「ねぇ、入場する時もバンド付けてかない?」
突然あゆが言った。
「えっ、なんで?」
「なんか変に緊張しちゃってさ、本番上手く走れない気がして……えへへ」
実にあゆらしくない提案だったが、自分のアップも兼ねて俺は了承した。
「最後の競技は、クラス合同の二人三脚です。選手入場」
最悪のアナウンスだ。
頼むからやらかすなよ、俺。
「よーし、絶対勝つよ!」
「ベストは尽くすよ」
「うん!」
曲に合わせて駆け足をし、選手入場を終えた。
「柚うううううう! 絶対勝てよおおおおおおお!」
第1走者は俺たち1年生。
「あいつうるさいな」
「いいじゃん! 柚のために全力で応援してくれてるんだよ!」
はなから集中などしていないが、負けるのは嫌だ。
「それじゃあ準備してね」
「「「はい」」」
返事をし、俺たちは白線に並んだ。
ゴールテープまでは30m、ミスなく走れればワンチャン優勝出来る……かも。
「みなさーん! 応援の力で、自分のチームを勝たせましょうねー!」
「「「おおおおおおおお!」」」
凄い応援だ。
ちなみに、俺のクラスのポイントは今60ちょうど。
1位の6組に勝つには、優勝の4ポイントが必須である。
「柚うううううう! 頼むううううう!」
ヒロの声って、なんでこんなに聞こえるんだろ。
「あっ、そうそう。一応俺、優勝狙ってるから」
俺がらしくない言葉を言ったその時、1人の女子生徒が俺の名前を呼んだ。
「柚くん! 頑張ってー!」
この可愛らしい声は、つい先日出会ったばかりの夏芽ちゃんだ。
「あ、あの子って……」
あれ? 急にあゆの様子がおかしく……。
「位置について、よーい」
えっ、嘘でしょ……?
ちょっ待……。
「ドン!」
スタートの合図が鳴り、生徒がゴールテープ目掛け駆けていく。
「ねぇ、柚?」
「えっ、なに、出発しないの?」
「あっ、そうだね」
俺たちは完全に出遅れた。
そりゃそうだ。
スタートすらしていないのだから。
「それでさ、あの、その……」
「なに、全然分かんないんだけど」
「だからね、その……」
あーこりゃ、1位は無理だな。
ごめんよ、ヒロ。
「あーもういいや!
柚はあの子と付き合ってるの!?」
「……はっ? 急に何の話?」
「だってだって、この前告白されてたじゃん!」
どうしてあゆがその事を知ってるんだ?
じゃなくて、なんで今?
「それ、今じゃなきゃダメ?」
「うん! 気になって集中出来ないもん!」
待てよ。これ、1位あるぞ?
「はぁ、全然付き合ってないよ。
だって俺、他に好きな人いるし」
「えっ、誰……?」
「えー、勝ったら教えてあげる」
「分かった。絶対勝つ」
その時、身体の危険センサーが俺に言った。
「足を全力で回さないとどこか壊れます」
だってさ。
「おりゃあああああ!」
「おりゃあああああ!」
あゆに負けじと、俺は全力で足を回した。
まだ死にたくはないからね。
するとその結果……。
「優勝は1組2組ペアーーーー!!!」
「「「うおおおおおおおお!」」」
なんか凄いことになった。
「柚、やったね!」
「あっ、うん」
実感がわかない。
俺は今本当に、優勝したんだろうか。
「勝利のハイタッチ!」
「いえーい」
ジャンプした拍子に、足のバンドが外れた。
どうやらギリギリだったみたいだ。
とそこへ、うるさい足音が1つ。
「柚うううううう!」
「うわっ、なんかキモいやつ来た」
死角から抱きつこうとしてきたヒロをかわした俺は、頭を軽く叩いてやった。
「痛てっ、酷いぞ柚! せっかく優勝の立役者を褒めたたえてやろうとしたのに!」
「やだよ。目立ちたくないし」
これは心からの本音だ。
「ふっふーん、残念ながらそれは無理みたいだぞ」
「えっ?」
「だってもう、1組のヒーローじゃん」
気づけば、1組の生徒全員が俺を囲っている。
「じゃあみんな、一斉に行くぞー!」
「「「うんっ!」」」
「えっ、何されるの……」
嫌な予感がする。
それも今世紀最大の?
「そんなの決まってんだろ……胴上げだー!」
「「「わっーしょい! わっーしょい!」」」
なぜだろう。
目立ちたくなかったはずなのに、俺は今確かに高揚感を覚えている。
「な、長くない……?」
「まだまだ行くぞー!」
「「「うおおおおおお」」」
あー、真剣にやってよかった。
そんな風に思える日が来るなんて。
「あゆちゃんおめでとう!」
「ありがとう! それより聞いて!」
「ん? どうしたの?」
「柚、誰とも付き合ってないんだって!」
「へ、へぇ、よかったねぇ」
(体育祭は二の次なんかい。
まぁ、幸せそうだしおっけーか)
俺は体育祭が嫌いだ。
目立ちたくない俺がヒーローになれてしまう、そんな体育祭が嫌いだ。