大好きだった彼。
今はもういない。
今、どこにいるの?
会いたいよ。大好きだよ。
毎日SNSでインターネットという果てのない空間でつぶやいていた。
「今、どこにいるの?」
青空の写真と共に不特定多数の人が見ることができるサイトに送信する。
彼がこの文字を読むことができるはずないのに。
この青空を見ることができるはずもないのに。
書き込みがあった。このアカウントは裏アカウントとして使用している。
友人は知らないので、書き込みは滅多にない。
「今、3丁目の電話ボックスにいるよ」
写真が送信された。
彼と待ち合わせしていた公園の脇にある今は誰も使っているのを見たことがない古びた電話ボックスだろう。でも、なんで?
彼がいるはずもないのに3丁目の電話ボックスなんて書き込んできたのだろう。しかも、写真付きだ。公衆電話をスマホでうつしたらしき写真も貼ってあった。誰かのいたずらだろう。
「今、どこにいるの?」
夕方、人気がなくなる時間に世界中のみんなが無視する文字を打ちこんでみる。誰もどうせ読んでいるわけがない。でも、今見ている星空を写真にうつしてせめて彼に届けよう。愛して愛してどうしようもなかった人だったから。
すると、また同じアカウントから書き込みがあった。
「今、海にいるよ」
彼と一緒によく海に遊びに行った。
夏の暑い季節に共に潮風を浴びた。
花火が良く見える秘密の場所で毎年一緒に見ていた。
星空の下で将来を語り合っていた。
夜の海の写真が送信されていた。
きっと誰かが彼のふりをして話し相手になってくれているのだろう。
彼はもうこの世にいないのだから――。
寝る前にふとスマホに入力する。
「今、どこにいるの?」
「今、君の家の前だよ」
うちの写真だ。なんで、私の家を知っているの? ストーカー?
それとも質の悪いいたずら? 友達はこのアカウントを知らない。
じゃあ誰が?
怖くなった私はそのままベッドで寝ようとする。すると、スマホの音が鳴る。
「今、部屋の前にいるよ」
私のアパートの前にいるらしい。表札が本物だ。犯人は部屋の外にいる。
怖い。なんで? 好きな人にただ話しかけていただけなのに――
震えて歯がかたかた音を鳴らす。
スマホを握り布団の中でうずくまる。
鍵はかけている。絶対に部屋の中に入ることはできない。
スマホがチリンと鳴る。書き込まれた合図だろう。
怖くて見ることができない。
警察を呼ぼう。不法侵入されたのならば、窓を割ったりドアを壊す音が聞こえるはずだ。でも、聞こえないということは、部屋の外で待っているに違いない。
「今、君の部屋にいるよ」
震えながら書き込みを見た。音もなく部屋に入るなんて、普通の人間にできるはずはない。きっとでたらめだ。
しかし、写真が添付されており、真っ暗な部屋に布団にうずくまる私らしき映像がうつっていた。ここは私の部屋の中だ。
布団からちらりと見ると、彼がいる。
ずっと大好きだった死んだはずの彼だ。
「どうして? あなたは海で溺れて死んだよね」
涙目になる。
「そうだよ。君に、あの電話ボックスで呼び出された俺は君に海に突き落とされて死んだんだ。でも、証拠不十分で君は逮捕されていない」
「ごめんなさい。あれは、違うの。あなたのことが好きすぎて、自分の物にしたかったの。間違えてあなたを突き落としてしまっただけなの!!!」
「嘘だな。この世の者がおまえの罪に罰を与えないならば、あの世の俺が与えるしかない」
その瞬間、私はあの時、突き落とした海の淵に立たされていた。
「じゃあ、同じ苦しみを味わってもらおうか」
冷たい海に突き落とされた。溺死は一番辛いと言われる。苦しい、意識がなくなる――。
気が付くと、今日の朝になっていた。
つまり、恐怖が始まる朝だ。
それから、なぜか今日が終わらなくなってしまった。つまり、明日に行けなくなってしまったのだ。それは、今日の出来事が永遠に続くという恐怖。終わりのない、終わらせることができない恐怖。相手が生きている者ならば殺すことはできるけれど、相手が死んだ者ならば殺すことはできない。私が生きている限り、彼は何度でも私を殺すことができるのだ。
罪と罰。彼が与えた贈り物はあまりにも苦しい。
今はもういない。
今、どこにいるの?
会いたいよ。大好きだよ。
毎日SNSでインターネットという果てのない空間でつぶやいていた。
「今、どこにいるの?」
青空の写真と共に不特定多数の人が見ることができるサイトに送信する。
彼がこの文字を読むことができるはずないのに。
この青空を見ることができるはずもないのに。
書き込みがあった。このアカウントは裏アカウントとして使用している。
友人は知らないので、書き込みは滅多にない。
「今、3丁目の電話ボックスにいるよ」
写真が送信された。
彼と待ち合わせしていた公園の脇にある今は誰も使っているのを見たことがない古びた電話ボックスだろう。でも、なんで?
彼がいるはずもないのに3丁目の電話ボックスなんて書き込んできたのだろう。しかも、写真付きだ。公衆電話をスマホでうつしたらしき写真も貼ってあった。誰かのいたずらだろう。
「今、どこにいるの?」
夕方、人気がなくなる時間に世界中のみんなが無視する文字を打ちこんでみる。誰もどうせ読んでいるわけがない。でも、今見ている星空を写真にうつしてせめて彼に届けよう。愛して愛してどうしようもなかった人だったから。
すると、また同じアカウントから書き込みがあった。
「今、海にいるよ」
彼と一緒によく海に遊びに行った。
夏の暑い季節に共に潮風を浴びた。
花火が良く見える秘密の場所で毎年一緒に見ていた。
星空の下で将来を語り合っていた。
夜の海の写真が送信されていた。
きっと誰かが彼のふりをして話し相手になってくれているのだろう。
彼はもうこの世にいないのだから――。
寝る前にふとスマホに入力する。
「今、どこにいるの?」
「今、君の家の前だよ」
うちの写真だ。なんで、私の家を知っているの? ストーカー?
それとも質の悪いいたずら? 友達はこのアカウントを知らない。
じゃあ誰が?
怖くなった私はそのままベッドで寝ようとする。すると、スマホの音が鳴る。
「今、部屋の前にいるよ」
私のアパートの前にいるらしい。表札が本物だ。犯人は部屋の外にいる。
怖い。なんで? 好きな人にただ話しかけていただけなのに――
震えて歯がかたかた音を鳴らす。
スマホを握り布団の中でうずくまる。
鍵はかけている。絶対に部屋の中に入ることはできない。
スマホがチリンと鳴る。書き込まれた合図だろう。
怖くて見ることができない。
警察を呼ぼう。不法侵入されたのならば、窓を割ったりドアを壊す音が聞こえるはずだ。でも、聞こえないということは、部屋の外で待っているに違いない。
「今、君の部屋にいるよ」
震えながら書き込みを見た。音もなく部屋に入るなんて、普通の人間にできるはずはない。きっとでたらめだ。
しかし、写真が添付されており、真っ暗な部屋に布団にうずくまる私らしき映像がうつっていた。ここは私の部屋の中だ。
布団からちらりと見ると、彼がいる。
ずっと大好きだった死んだはずの彼だ。
「どうして? あなたは海で溺れて死んだよね」
涙目になる。
「そうだよ。君に、あの電話ボックスで呼び出された俺は君に海に突き落とされて死んだんだ。でも、証拠不十分で君は逮捕されていない」
「ごめんなさい。あれは、違うの。あなたのことが好きすぎて、自分の物にしたかったの。間違えてあなたを突き落としてしまっただけなの!!!」
「嘘だな。この世の者がおまえの罪に罰を与えないならば、あの世の俺が与えるしかない」
その瞬間、私はあの時、突き落とした海の淵に立たされていた。
「じゃあ、同じ苦しみを味わってもらおうか」
冷たい海に突き落とされた。溺死は一番辛いと言われる。苦しい、意識がなくなる――。
気が付くと、今日の朝になっていた。
つまり、恐怖が始まる朝だ。
それから、なぜか今日が終わらなくなってしまった。つまり、明日に行けなくなってしまったのだ。それは、今日の出来事が永遠に続くという恐怖。終わりのない、終わらせることができない恐怖。相手が生きている者ならば殺すことはできるけれど、相手が死んだ者ならば殺すことはできない。私が生きている限り、彼は何度でも私を殺すことができるのだ。
罪と罰。彼が与えた贈り物はあまりにも苦しい。