「もう……だめです……」

 告白しただけなのに何故かめでたいムードが巻き起こったことで、勇者と魔王の戦いは一時休戦となった。
 彼は自室で茫然自失としている。

「……お嬢様に嫌われました……」
「みー」

 ベッドで落ち込んで涙目になるアランの背中を、猫がふみふみと一生懸命に揉み仕事をしていた。
 アランは完全になすがままである。

「こんな残酷な世界……滅ぼしても良いですか……」
『勇者よ! 諦めるな! まだ告白の返事をもらってないだろう!』
「そうだ。相手の出方を伺うまでは、決断をするには時期尚早だ。それににゃんこに踏まれるなんてけしからんぞ勇者、そこを代われ!」

 ベッドのすぐ床下には、聖剣が横たえられている。
 アランの部屋には、何故か猫まみれな魔王もいた。
 敵である勇者を励ます魔王に向かって、アランは寂しそうに答えた。

「いえ、お嬢様は態度でお返事になられました……。ぼくと顔も合わせたくないと……ぐすっ……」

 アランの脳裏によぎったのは、暴露した直後のセルシアの様子。

「うぅっ……。お嬢様は猫で顔を隠すくらい、ぼくの顔が見たくなかったんですね……」
『……あれは恥ずかしがっていただけだと思うのだが?』
「そうです。ぼくなんかに告白されて、お嬢様はどれだけ恥ずかしい思いをされたことか……」
『勇者よ。お前何でもこなせるハイスペックなわりに、小娘相手だと気が弱いのはなんなのだ?』
「惚れた故の弱みというやつか。であれば、吾輩が代わりに引導を渡してくれよう。小娘に貴様をどう思っているか、このにゃんこパワーで吐かしてくれようぞ」
「にゃー!」
「うわああああ!! やめてください!! ぼくの心にトドメを刺すのは!!!」
「吾輩は魔王であるぞ。勇者にトドメを刺すのは当然だ!」

 賑やかに騒ぎ立てる勇者と魔王の様子を、聖剣は地べたから呆れた様子で眺めていた。

『我思うに、勇者と小娘は両想いだと思うんだがな?』