さて翌日。
 セルシアの起床後にアランが目覚めのお茶を持っていくと、彼女は不思議そうに首をかしげて問いかけた。

「ねえアラン。昨夜外から聖剣の声が聞こえたけど、なにかあったのかしら?」
「投擲の練習をしていました」
「アラン? 聖剣は投擲に向かないと思うわ? 剣がなければ勇者は戦えなくなるでしょう?」
「ごもっともですね、お嬢様!」
「武器は大切にしないとダメよ?」
「はい! ですが、聖剣は頑丈なので、適当に取り扱っても平気です」

 ちょっとズレた天然な悪役顔令嬢と、お嬢様至上主義の執事のボケはいつも以上にフルスロットル。
 なお、聖剣は不在のため、ツッコミも不在である。

 そんな中、公爵家の中が異様に騒がしくなる。

「どうしたのかしら?」
「様子を見てきましょうか」
「そうね……あら?」

 窓から数匹の猫がぴょこっとセルシアの部屋に入り込んだ。

「にゃー」
「にゃんにゃんにー」
「まあ可愛い!」
「どこから来たんでしょうか? お屋敷では猫は飼っていないはずですが……」
「ねえねえ、アラン! みてみて! ふわふわだわ! ほら!」
「そうですね。か、かわいいです……その、お嬢様の笑顔が……とっても……」

 猫を撫でて幸せそうな顔をしているセルシアを見て、アランがほっこりする。
 もちろんアランの声は後半小声である。

「大変です、セルシア様、アラン!」
「!?」

 その時、セルシアのメイドが慌てて部屋に駆け込んで来た。

「お、お屋敷に……くしゅんっ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「私、猫アレルギーでして……くしゅっ!!」
「もしかして大変なことって、この猫と関係があるんでしょうか?」
「そうです! な、なんと………………くしゅっ、くしゅっ、くっしゅんっ!!!」
「……」

 セルシアとアランは、メイドのくしゃみが終わるまでソワソワウズウズしながら待ち構えた。

「ふぅ、鼻がむずむずします……」
「そ、それで屋敷になにがおきたの? 猫ちゃんの大量発生?」
「そうでした! 魔王が……魔王が攻めてきました!!」

 予想外の報告に、ふたりは呆気にとられた。

「…………まあ」
「それ、猫と関係なくないですか?」
「大変だわ、アラン! 聖剣はどこ? 聖剣を取りにいきましょう!」

 猫を抱っこしながらキリッとした様子を見せるセルシアの様子にキュンとしながらも、アランが頷く。

「そうですね。………………あっ」

 しかしすぐに、聖剣の場所を思い出して言葉を失ったのだった。