アランは与えられた自室で就寝の準備をしていた。
 そろそろ寝るぞ、と言ったところで、日中あまりに無視されすぎて沈黙していた聖剣が安眠妨害を始めた。

『勇者よ、明日こそは旅に出るぞ! お前たちのじれじれを見るのはもう飽きた!!』
「イヤです。お嬢様のおそばにいられなくなるじゃないですか」
『とっとと旅立ちして、ささっと魔王を倒せばよかろう! お前なら一ヶ月かそこらで討伐を終えるだろうからな』
「一か月もですか!? その間にお嬢様がご結婚されたらどうするんですか!!」
『婚約もしていないのに、そんな爆速で結婚するわけがなかろう!』
「じゃ、じゃあ婚約でもされたら……」
『心残りがあるならサッサと告白しろ!』
「! ぼ、ぼくはそんなつもりは……」

 ちなみにアランはセルシアの前では一人称が私だが、プライベートの場ではぼくである。

『ただの執事なら婚約結婚は祝うべきだろう。それなのに、あの小娘にベタベタデレデレしおって!』
「お嬢様は小娘じゃありません! 素敵なレディです!」
『そこまで言うなら、告白せいや!』
「だ、だって! 告白して断られでもしたら、気まずくなって! お嬢様のおそばにいられなくなってしまうじゃないですか!」

 アランはなんでもこなせるスーパー執事だが、同時に想い人にだけは想いを告げられない小心者でもあった。

『勇者よ、お前がその気なら我にも考えがある……!』
「……なん、ですか……?」

 改まった様子の聖剣に、アランは息をのんだ。

『お前の気持ちを……暴露するッ!!!』
「えっ」
『幸い我は脳内に直接呼びかけられる。すぐにでも小娘に告白できよう!』
「そ、それだけは……!!」
『クックック、これがお前の弱点だ! 勇者よ!』

 聖剣にあるまじき悪い笑い声が響いたあと、アランは聖剣を逆手にガッと乱暴に掴んだ。

『ふぉっ!?』

 そして、窓を全開にして叫ぶと、聖剣を空高くぶん投げた。

「それだけは、やめてくださいーーーッ!!!!」
『うわあああああーーーー!!!! おのれ勇者よーーー!!!!』

 その夜。
 公爵家から魔王城までの空が凄まじく光り、何かの雄叫びが聞こえたとかなんとか、人々の間で噂されたとさ。