「―それでは、ただいまより九條 錬さんの記者会見を始めます」
 パシャ、パシャ、パシャパシャ。
 集まった多くのカメラの白いフラッシュが、まぶしい。でもこれは合図だ。すごく豪華なホテルで、中でも一番大きな会場で、いよいよ会見が始まる……ね。
 どきどき、どきどき、胸の音がはやくなる。注目されているのはわたしじゃないのに。
 みんなの視線は、となりに座っている国民的アイドル・九條 錬に集中している。耳の下まで伸ばしたさらさらの銀髪、まつ毛バサバサのアーモンド形の瞳の色はまるで夏の青い海……そしてそして、シュッとした鼻筋にぴかぴかの白い肌!
 もう、いいところをあげたらキリがないの! 
 一方わたくし・九ノ里 未空はといえば……なんとか胸まで伸ばした髪はパサパサで、中学二年生にしてはまーるい輪かくの幼顔。背は前から二番目の低さだし、目立つようなオーラは欠片もない。
 つまり、有名アイドルのとなりに座れるような魅力とか要素とかはまったくなくて……まあ、話が長くなるからやめておこう。
「みなさん」
 九條 錬が、長テーブルの上に置かれたマイクをいよいよ持ち上げる。
「本日は、ぼくの会見に集まっていただいてありがとうございます。みなさんに報告したいことができました」
 ごくり、つばを飲み込む。
 これからする告白をみんなが―全国、全世界のみんなが聞いたら、二度と引き返すことはできない。
 でも大丈夫。わたしは、九條 錬と人生を共にするって決めたんだから。
 ちらり、となりを見るとちょうど彼と目が合った。本当にいい? って確認されているみたい。いいよって意味で、大きくうなずいて答える。
 九條 錬の視線が前にもどる。そして、マイクを強くにぎって、小さく息を吸いこむ。
「じつは……生き別れた妹をとうとう見つけることができました! 彼女です!」
 カメラのレンズも記者の両目も、一気にわたしに集まる。同時に、ひざの上のこぶしにギューッと力がこもる。
 いざ言葉にされると、めちゃくちゃ胸が苦しい……! もう、救急車呼んでほしいです!  
 だけど九條 錬はさらにわたしをヒンシに追い込む。
 肩にうでを回して引き寄せたかと思うと、二人のほおをぴったりくっつけるんだから(はわわわわっ!)。
「これから、このかわいい妹と一緒に暮らします!」
 にっこり笑う彼に合わせて、わたしもな~んとか笑顔を見せる(上手かどうかはべつとしてね!)。
 でも心の中で必死にうったえる。
 みなさん、ちがいますからねっ。ぜーんぶ真っ赤なうそですから!
 わたしは、九條 錬の妹じゃない。さっきも言ったけど、アイドルのとなりに並んで座れるような芸能人とか有名人じゃないもん。地元の中学校に通う、平凡な十四歳。
 それなのに、今は国民的アイドルの家族のフリをしなくちゃいけないってヘンな話だよね(ココ、あとでちゃんと説明するね)。
 とにかく今は、一番大事な問題だけ教えるよ。
 謎の多い孤高のアイドル・九條 錬の正体―それは【エイリアン】だってこと。
 え? みんな聞こえなかった? もう一回言うね。愛すべき天下のアイドルは、エイリアンなの。
 地球人じゃない。宇宙にいくつもある、地球以外の星からやって来た異星人。


 ―このヒミツ、守れるかな?