○学校・体育館(部活動)

バスケットボール部の練習。
試合形式の練習、典子がシュートを決めると同時に拍手が湧き起こる。

顧問(メガネ姿の厳しそうな女性教師)「集合」
バスケットボールのメンバーが顧問の教師の元に集合する。

顧問「インターハイのレギュラーを発表する。竹本、森田、石井、根本、それから瀬高だ」
部員たちは3年生のレギュラーの中に2年生の瀬高典子が入ったことにどよめく。


3年生のレギュラーたちに叱咤激励され喜ぶ典子。
唇を噛み締めながら睨みつける彩芽。

典子は先輩たちの期待に応える為に、体育館に一人残り自主練習を始める。
後ろからボールをぶつけられて振り向く典子。
そこには制服に着替えた彩芽がいた。


彩芽「のりちゃん、もう、19時半だよ。帰ろうよ、送ってー!」
典子「後ろからボールをぶつけてくるなんて危ないじゃない!」
彩芽「レギュラーになってやる気出ちゃってるかもしれないけれど、あまり頑張り過ぎると疲労骨折とかしちゃうよ。親友として心配してあげてるのに」
典子「彩芽は先に帰ったら? 私はまだ着替えてもないし」
彩芽「こんな暗いのに女の子一人で帰れないよ。のりちゃんは、男みたいに見えるから私の護衛役にちょうど良いの! 私が襲われたらどうするの?」

典子は彩芽が自分を歩道橋から落とすという瑛太の言葉を思い出し彼女を避けていた。

典子「じゃあ、残っている教職員にでも声を掛けて家まで送って貰ったら?」
典子は彩芽が投げたボールと自分の使っていたボールを両脇に抱えて体育館を出ていく。

○学校・校庭(夜)

校庭を横切り、足早に部室棟に向かう典子を追いかけてくる彩芽。

彩芽「のりちゃん、感じ悪いよ。イケメン彼氏ができたからって調子に乗っている痛い女になっちゃってる」
典子「彼氏なんかできてない」
彩芽「瑛太君と今日何度もアイコンタクト取ってたじゃん。まあ、アメリカ帰りのイケメンとのりちゃんじゃ釣り合わないか。身の程を知らないと笑い者になるよ」

典子は彩芽を無視して部室の扉を開けた。

○学校・バスケットボール部の部室

典子は奥にあるバスケットボールカゴに二個のボールを入れる。
彩芽「背がデカいだけでレギュラー取った癖に偉そうにしてるんじゃねーよ」

突然聞こえた彩芽の声と共に、扉を勢いよく閉める音がした。
その後に続く、鍵を閉める音に典子は驚く。

部室の扉を必死に叩く典子。
典子「ちょっと、彩芽、開けて!」
彩芽「そんなに自主練したいなら、臭い部室で一生やってたら。じゃあね、夜も遅いし私は帰るわ。朝になったら、朝練組が開けてくれるんじゃない?」

典子は彩芽の意地悪な笑い声と足音が遠ざかっていくのを聞き座り込んだ。
スマホの入ったカバンは体育館に置きっぱなしだ。
時間がどれくらい経ったかも分からないが、夜はどんどん冷えていく。
体操着姿に短パンで汗をかいた典子は、体が冷えていくのを感じ震えながら縮こまった。


典子「今、何時なの?」

典子の目から涙が溢れ落ちそうになった時に部室の扉が開いた。
瑛太と白髪混じりの用務員のおじさんが経っている。

瑛太「典子、大丈夫か?」
用務員「本当に、まだ生徒がいたのか!? 来てみてよかったわ」

瑛太は典子に駆け寄り、親指で彼女の涙を拭う。
典子「笹川君、どうしてここに?」
瑛太「その話はまた後で、カバン持ってきたから着替えて」
典子は涙を拭いながら制服に着替え、用務員にお礼を言うと瑛太と校門を出た。

○通学路(夜)

典子の手を繋いでくる瑛太。

瑛太「家まで送るよ」
典子「一人で帰れる⋯⋯」
瑛太「こんな夜遅くに大切な女の子を一人で帰せる訳ないでしょ。お義母さんにも久しぶりに会いたいし」
典子は繋いだ手を見つめながら頬を赤く染める。

典子「どうして、私があそこにいるって分かったの?」
瑛太「昨日、典子が着替えている間にGPSアプリをスマホに仕込んでいたから」

瑛太がカラッと言った言葉に典子は目を見開く。
典子「なにそれ! 笹川君ってストーカーなの?」
瑛太「そうだよ。俺は典子のストーカー。時を超えて君を幸せにする為にやってきた」

月明かりに照らされた瑛太の微笑みに典子は思わず見惚れてしまう。

典子「私を幸せにする為って⋯⋯」
瑛太「俺は典子を永遠に幸せにするって誓ったんだ。奇跡が起こって過去に戻った。俺は自分の知らなかった典子も幸せにしたい」
典子は瑛太の言葉に思わず胸が詰まるのを感じた。

典子「だからって、高校生で一人暮らしする?」
瑛太「中身は26歳なんだよね。一人暮らしだから、典子はいつでも遊びに来て」
典子「行ける訳ないでしょ。一人暮らしの男の家なんか」

照れくさい空気に耐えられず、典子は空いた手で自分の髪を弄ぶ。
瑛太は典子の照れた顔を嬉しそうに見つめていた。