〇 通学路(降り頻る雨)

雨が降り頻る中、走る典子に追いつく瑛太。
典子は手首を捕まれ、思わず振り向く。

典子「離して!」
瑛太「やっとまた会えたんだ。絶対に離さない」

突然、典子を抱きしめてくる瑛太。
典子は確かに小学校時代、瑛太に少し惹かれていたことを思い出す。

瑛太「ちょっとこっち来い」
瑛太は自分の着ていた学ランを典子にかける。
典子は自分の白い長袖のセーラ服が透けて下着が見えている事に気がついた。

恥ずかしくなり、学ランで前を隠す典子。
瑛太「とにかく家に入ってけよ。お前の家までそのままじゃ帰れないだろ?」

典子の家はここから1キロは離れている。

典子「なんで知ってるの? 私の家」
瑛太「結婚の挨拶の時に行った⋯⋯」
突然、典子を引き寄せて耳元で囁く瑛太。

典子「はぁ?」

典子は思わず声が裏返る。
瑛太はニヤリと笑うと、カバンから鍵を取り出しマンションの入り口を開錠した。

◯高級マンションの廊下(モダンな内装に静かな水音が響いている)

ホテルのような内装のマンションの中庭には滝が流れている。

瑛太「滝が気になるんだろ。いつかナイアガラの滝に行きたいって言ってたもんな」
典子「さっきから何言って⋯⋯」

典子は困惑しながらも瑛太についていく。
1001号室と書かれた部屋の扉を瑛太が開く、典子は大人しく部屋に入った。

◯瑛太の部屋(落ち着いたモノトーンで統一されている)

瑛太「今、タオル持ってくる。制服も脱いじゃって、乾燥機で乾かしちゃうから」
典子「脱ぐわけないでしょ? 何言ってるの?」

典子は思わず自分の身を抱きしめる。
部屋の中を見渡すと、人気がないのに気がつく。

瑛太「はい、タオル。一人暮らしだから、安心して」
典子は顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。

典子「一人暮らしって⋯⋯」
瑛太「いや、確かに濡れた女子高生の典子は唆るけど何もしないから。別にご所望なら何かしても構わないけど」

瑛太が急に名前で自分を呼んできて動揺する典子。

典子「さっきから、変な事ばかり言わないで」

典子は瑛太からタオルを取り上げるとガシガシと頭をふく。

瑛太「そんな風に雑にふかない。綺麗な髪なんだから」

瑛太は典子からタオルを取り返し、抑えるように水分をとった。

典子は結局、瑛太に渡されたスエットの上下に着替える。
典子は瑛太に促されダイニングの椅子に座った。

瑛太「ダボダボ、可愛いな⋯⋯」
瑛太が、ハイビスカスティーをいれながら呟いた。

典子「男の癖に随分、洒落たものを飲むのね」

典子は照れ臭く顔を赤くしながら言い放つ。

瑛太「典子がハイビスカスティーが好きだから、買っておいたんだけど? 妊娠中にノンカフェインだからってよく飲んでた」
典子「に、妊娠? さっきから、なんなの? 作り話?」

典子は思わず口をパクパクさせる。

瑛太「金魚みたいで可愛い! 手を出していい?」

瑛太は典子の頬にそっと手を当てて顔を近づけてくる。

典子「ダメに決まってるでしょ! それに、私たちそういう関係じゃないよね⋯⋯」

典子は混乱していた。
瑛太は確かに初恋の人で、5年前よりカッコよくなった姿に彼女もときめいた。
しかし、彼は彼女に5年前トラウマを与えた相手でもある。
あれ以来、背が高い事がコンプレックスを感じるようになり猫背になってしまった。

瑛太「俺たちは初恋同士だよ。本来なら俺たちが再会するのは俺が一時帰国して参加した20歳の成人式。そこで、俺たちの付き合いが始まって、遠距離恋愛を経て25歳で結婚⋯⋯」
典子「はぁ? 何言ってるの?」

典子は照れ隠しに真っ赤なハイビスカスティーに口をつけるもむせてしまう。
瑛太はそっと彼女からカップを取り上げてテーブルにおく。

瑛太「髪乾かすから、こっち来なさい」

瑛太は隣の部屋に行き引き出しからドライヤーを取り出すと、典子を手招きした。
典子は隣の部屋に行き、ベッドを見て思わず固まった。

瑛太「下心なんでないから、ただ久しぶりに典子の髪を乾かしたいだけ⋯⋯」

典子は身構え過ぎるのも恥ずかしいと思い彼の隣に座る。瑛太はにっこり微笑むと彼女の髪に指を通しながら丁寧に乾かし出した。典子はくすぐったくて身を捩り俯く。

瑛太は突然彼女の背骨をなぞり出した。

典子「ひゃっ」
瑛太「いかなる時も、背筋を伸ばしなさい! そうやって縮こまるな」
典子「急に、何? 先生みたいな口調」
瑛太「姿勢を正して、典子! 君はとても綺麗な子だ。そうやって縮こまってたら、あの女にまたやられる⋯⋯」

ドライヤーのスイッチを切った瑛太が典子をそっと抱きしめる。典子は彼を押し返そうとするが、彼の手が震えていることに気がつきやめた。

典子「笹川君は未来から来たの?」
瑛太「笹川君って、典子も笹川さんになるんだけどね。初恋の女の子で妄想した俺の話を聞いてくれる?」
典子の顔を覗き込む瑛太の目は真剣そのもので、その瞳には涙が滲んでいた。