〇 学校・教室2−3(朝)
皆が騒がしくする教室に担任の先生が入室してくる。
担任教師(メガネ姿の40代前半くらいの短髪男性)「おい、お前ら静かにしろ。転校生を紹介するぞ」
 

笹川瑛太(短髪黒髪の背の高い転校生)が入ってくるなり、クラスがざわめき出す。
クラスメート女子「凄いイケメン! 芸能人みたい」
鈴木晴人(茶髪で前髪長めのお調子者男子)「っていうか、瑛太じゃね? 六ツ川小学校で一緒だった。背、デカくなったなあ」

笹川瑛太「父の仕事でアメリカのロサンゼルスに5年程住んでいましたが、またこの街に戻ってきました。宜しくお願いします」

瑛太は、瀬高典子(背が高いショートカットの美人)をじっと見つめながら話すが、典子は目を逸す。

担任教師「川島彩芽(巻き髪のツインテール)の隣が空いてるな。笹川、とりあえず次の席替えまであそこに座れ」
担任が指し示したのは、典子の後ろで彩芽の隣の席だった。

彩芽は嬉しそうに立ち上がり、手を振る。

川島彩芽「瑛太くーん! 私のこと覚えてる。小学校の時に一緒だった川島彩芽だよ」
瑛太「覚えてないし、馴れ馴れしくしないでくれる?」

瑛太がクラスの男子のアイドル的立場である彩芽に冷たくしたので周囲はどよめく。

クスクス笑う女子たちと、彩芽を庇う晴人。

クラスメート女子「ぶりっ子女ザマァ⋯⋯」
晴人「瑛太、彩芽ちゃん忘れるってお前女に興味ないの?」

瑛太は黙って席に座り、頬杖をつきながら目の前の典子の頭を見つめた。

彩芽は立ち上がり、典子の耳元で囁く。
彩芽「のりちゃん、屈んであげて! 瑛太君が見えないって」

瑛太は彩芽の手首を掴み、椅子に座らせた。
そして低い声で彼女に警告する。

瑛太「お前、相変わらずクソみたいな性格してんな。大人しくしとけ⋯⋯」
彩芽は目を見開き瑛太を凝視した。


○学校・教室
担任教師「今日は職員会議があるからみんな直ぐに帰るように」
彩芽「のりちゃん、部活休みだし今日はカラオケでもして帰ろう。瑛太君もどお?」
彩芽は瑛太の腕にしがみつこうとするが、瑛太は振り払った。

〇 学校・昇降口(降り頻る雨)(放課後)

5年ぶりの再会を果たした瑛太は典子の後を追う。
彼は典子の心に消えない傷を残した男だった。

笹川瑛太「傘、忘れたの? 俺のに入る? 瀬高さん⋯⋯」
瀬高典子「え!? いらないよ。転校生が私に何なんの用?」

戸惑いながら典子は瑛太から目を逸らし俯く。
笹川瑛太は驚くほど背が伸びてかっこよくなって彼女の元に戻ってきた。

5年程前、小学校の卒業式で典子にトラウマを与えた男だ。

彼と相合傘をして帰るくらいなら濡れて走って帰る。

瑛太は背も高くルックスも抜群な転校生。
彼に話かけられた典子を女子たちが羨むような目で見た。

瑛太「転校生!? 俺のこと本当に忘れちゃった?」
典子は瑛太を忘れたくても、忘れたことなどなかった。

典子「今日が初めましてだよね。笹川君⋯⋯」
典子は絞り出すような声で言うと、瑛太は少しムッとしたような顔をした。

〇(回想)瑛太と典子の小学校の卒業式。

卒業ソングが響き渡る中、体育館の入り口で卒業生たちがひしめき合う。
〇 体育館(卒業式)

「卒業生の入場です」
アナウンスと共に入場する卒業生たち。
男女ペアになりながら体育館の入り口で列に並ぶ瑛太と彼より背が高い典子。

瑛太「まじかよ! 最悪! 瀬高と手繋ぐのかよ。本当にセータッカノッポだよな」
瑛太の言葉に周りが爆笑、胸の腕章を握り締めながら俯く典子。

典子「あんたがチビなだけじゃん⋯⋯」
消え入りそうな声で震えながら呟く典子の声。

鈴木晴人「のっぽさんってマジ冗談通じないよな。卒業式なのに空気台無し」
川島彩芽「⋯⋯のりちゃんも悩んでるんでよー。大きくてぬり壁みたいだって!」
晴人「彩芽ちゃん、瀬高の後ろに隠れると見えなくなっちゃうもんな。本当に小さくて可愛いんだから」
彩芽は典子の後ろに隠れて見せて、周囲の笑いをとる。

典子は色白で小柄で可愛い彩芽を親友だと思っていた。
そして、いつも自分と一緒にいようとする彼女を鬱陶しく感じるのは自分の性格が悪いせいだと落ち込み俯く。

晴人「彩芽ちゃんは優し過ぎ。瑛太もあと一列違えば彩芽ちゃんと手を繋げたのに⋯⋯」
瑛太「どうでも良いよ」

典子は小学校6年生で既に170センチの身長があった。
周囲の男子よりも大きく彼女はいつも猫背で俯いていた。



(回想終了)

瑛太「六ツ川小学校で一緒だったんだけど、覚えていない? 卒業式は手を繋いで入場したんだけどな?」
瑛太は外履きに履き替えながら淡々と典子に話し掛ける。

典子「同じ小学校だったんだ。知らなかった。小さくて忘れちゃったのかも」

典子は自分の苦しい思い出を首を振って忘れようとする。

瑛太「本当に忘れた? こんな風に泣きそうになってた瀬高さんの手を繋いであげたことも?」
突然、典子の手を握りしめる瑛太に彼女は目を丸くする。

ただでさえ、高身長のイケメン転校生として注目されている瑛太に手を握られていて周りの視線を集めてしまった。

典子「忘れた!」

典子は瑛太の手を振り払い雨の中を駆け出す。
瑛太は振り払われた手に口付けをする。
そして、傘を開くのも忘れて典子を追いかけるのだった。
「忘れたって⋯⋯覚えているから、忘れるんだろ⋯⋯」

そんな二人を彩芽は唇をかみながら睨みつけていた。