この国の王太子は、現在の国王と亡くなった王妃とのあいだに生まれた第一王子のオスカー・バルヴィア。
男性とは思えないほど美しい顔をしていて聡明だと言われているが、レーナは姿を目にしたことがない。
「フィンブル宮殿はまだ誰も住まわれていませんよね?」
「ああ。王太子様の縁談が決まりかけてたのに白紙になったし」
誰かに聞かれたら困ると思ったのか、クリフは右手で口元を隠しながら声をひそめてそう言った。
二ヶ月前、国境の西側に位置するスワスティカ王国の第二王女であるシモンヌとオスカーの縁談話が持ち上がった。
王族のほとんどは政略結婚で相手が決まるため、シモンヌがこの国の王太子妃として迎え入れられる運びになっていた。
しかし、シモンヌの病気を理由に、スワスティカ王国が結婚の白紙を申し入れてきたのだ。
「私、そのころちょうどお休みをいただいてたので、あまり噂を知らなくて」
レーナは料理人が用意したパンとスープ、チキンの乗ったトレイをクリフの元へ届け、グラスに水を注いだ。
相当空腹だったのか、勢いよくパンを手に取ったクリフが大きく口を開けてかぶりつく。
「そうだ、事故に遭ってたころだよ。その後大丈夫なのか?」
「はい。もうすっかり平気です」
実は二ヶ月前、レーナは使いで宮殿の外に出る機会があった。
その帰り道、とある公爵家の馬車と衝突してしまったのだ。
地面に頭を打ち付け、身体のあちこちに打ち身と傷ができたレーナは長期の休暇を願い出て、ひと月ほど実家で静養していた。
そのあとからだ。――――変な夢を見るようになったのは。
男性とは思えないほど美しい顔をしていて聡明だと言われているが、レーナは姿を目にしたことがない。
「フィンブル宮殿はまだ誰も住まわれていませんよね?」
「ああ。王太子様の縁談が決まりかけてたのに白紙になったし」
誰かに聞かれたら困ると思ったのか、クリフは右手で口元を隠しながら声をひそめてそう言った。
二ヶ月前、国境の西側に位置するスワスティカ王国の第二王女であるシモンヌとオスカーの縁談話が持ち上がった。
王族のほとんどは政略結婚で相手が決まるため、シモンヌがこの国の王太子妃として迎え入れられる運びになっていた。
しかし、シモンヌの病気を理由に、スワスティカ王国が結婚の白紙を申し入れてきたのだ。
「私、そのころちょうどお休みをいただいてたので、あまり噂を知らなくて」
レーナは料理人が用意したパンとスープ、チキンの乗ったトレイをクリフの元へ届け、グラスに水を注いだ。
相当空腹だったのか、勢いよくパンを手に取ったクリフが大きく口を開けてかぶりつく。
「そうだ、事故に遭ってたころだよ。その後大丈夫なのか?」
「はい。もうすっかり平気です」
実は二ヶ月前、レーナは使いで宮殿の外に出る機会があった。
その帰り道、とある公爵家の馬車と衝突してしまったのだ。
地面に頭を打ち付け、身体のあちこちに打ち身と傷ができたレーナは長期の休暇を願い出て、ひと月ほど実家で静養していた。
そのあとからだ。――――変な夢を見るようになったのは。