「私、食材庫にじゃがいもを取りに行ってくるね」

 ジェシカが笑顔でレーナに声をかける。
 すぐ後ろにはテーブルの上に所狭しと陶器の皿が積まれていた。
 
「あぶない! お皿が!」
「え?」

 床に落ちてしまう前にレーナがあわてて支えたため事なきを得る。
 ホッと胸をなでおろすレーナとは対照的に、ジェシカはすぐに理解が追い付かずにしばらくポカンとしていた。

「そっか。レーナのおかげでお皿が割れずに済んだのね」
「ジェシカが怪我をしなくてよかった」
「でも、私がぶつかるって、どうしてわかったの?」

 ジェシカが皿を安全な場所へ移動させつつ率直に問いかけると、レーナは苦笑いを浮かべた。

「今朝の夢。今と同じ状況で、何枚もお皿が割れてジェシカが顔を真っ青にしてたから」

 気味が悪いと言われるかもしれない。そう懸念したレーナだったが、ジェシカはただ驚いたり感心したりするだけだった。

「正夢ってやつ?」
「そうなのかな」

 もっと事前に明確な情報が得られればいいのだが、夢はいつも継ぎはぎ。
 なので、その場面に直面する寸前にならないとわからないのがレーナはもどかしかった。

「とにかく助けてくれてありがとう!」

 レーナは照れながら首を横に振り、ふたりは微笑み合って仕事に戻った。