この日も休んでいるマリーザの仕事を補うため、レーナは調理場を手伝うことになった。
 自然と頭に浮かぶのは眉目秀麗なオスカーの顔。彼が毒を飲まされて倒れる姿だ。
 食料庫の隣にあるワインの貯蔵室に入ってみたが、特に変わった様子はない。
 レーナはあちこち見て回ったあと、ほうっと息を吐く。普段出入りしていない自分が見てもわかるはずがないのに、と。
 自分でなんとかすると彼は言っていたけれど、本当に大丈夫なのか……。レーナは心配で仕方なかった。

 一日が終わり、寝る準備をして床につくと、レーナは再び不思議な夢を見た。
 昨夜とまったく同じシチュエーションで、続きのような夢だ。 
 この国とは全然違う造りの木造の建物が建っていて、みんな黒髪で黒い瞳をしている。

「お嬢様、なにをなさってるのですか?」

 昨日の夢に出てきた使用人の少女がかわいらしく小首をかしげて尋ねた。場所は屋敷の一角にある部屋の中だ。

「お花をいただいたから、押し花を作っていたの」

 レーナがそう答えると、少女は瞳を輝かせた。

「それはなんですか?」
「花は時が経てば枯れてしまうでしょう? 押し花にしておけばいつまでも手元に置いておけるのよ」

 少女が明るい表情のまま「へぇ~」と感嘆の声を上げる。