自然災害が少なく、豊かな土壌に恵まれた国であるエテルノ王国。
 空は果てしなく青く、薄い雲がおだやかにゆったりと流れていく。

 現在この国を統治しているのは、第十二代国王であるブノワ・バルヴィア王。
 国王とその家族たちは、なだらかな丘の頂上に建てられたシルヴァリオン宮殿で優雅に暮らしている。

「レーナ、起きて。……レーナ!」

 王宮の敷地の中でも一番はずれにある使用人たちが住む一角。
 身体を揺り動かされたことで、レーナはぼんやり目を覚ます。
 薄目を開けると、同部屋で共に暮らしているジェシカの顔が視界いっぱいに広がった。

「そろそろ起きないと遅刻する」
「うん、そうだよね。起こしてくれてありがとう」

 のそのそとベッドから降りて、いつものメイド服に袖を通す。
 レーナ・アラルースアがこの宮殿へやってきたのは二年前。洗濯係の使用人として働いている。
 姉が雇われている公爵家から紹介されたのがきっかけだった。

「もしかして体調が悪い?」

 ジェシカが心配そうに顔を覗き込む。
 レーナは笑みをたたえつつ、ふるふると首を横に振ってブロンドの長い髪を後ろでひとつに束ねた。