彼女は、要するに、この世のものではなかった。
人間に化けた、キツネ。
でも僕はそんなことも知らずに、ずっとずっと、その年の秋、黄昏時だけに現れる彼女に恋をして。
走って、鳥居を潜っていた。
鳥居を潜って、彼女が姿を現した途端、狐の面は姿を消していた。


ねぇ、来年も会おうよ。彼女は、その年の秋が終わる日、そう言った。
「あたし、秋にしかここしゃぃおらんと。これんのや」
だから、毎年、ここに来て、彼女にあいに行っていた。
毎年、恋焦がれて、盲目で。気づきもしなかった。気づけなかった。

それからいくつの年月が経っただろうか、紅葉が全て散った、あの日、最後の日。
彼女は消えた。
記憶の中の彼女の最後の姿は、半透明の、キツネの姿だった。

あの暁色の髪も、光る黄色の瞳も、くしゃっとした笑顔も、響く柔らかな声も。
美しさを失い、汚れていた。
消えかけていた。