僕が彼女のことを好きになったのは、多分、あの秋の黄昏時。

彼女は、とても不思議な人だった。
赤茶色の髪を夕日になびかせ、くしゃっと笑う、そんな人だった。
ふと気づいたら、消えてしまっている、そんな人だった。
儚げで、触ったら崩れちゃいそうな、そんな人。

古く寂しげな、田舎の小さい神社。神さまがいるのかもわからないくらい、壁も天井も、ボロボロで今にも崩れ落ちそう。
ただ一つだけ、目の前には、昨日できたばかりみたいな、綺麗な鳥居が並んでいる。
その道の真ん中にある、割れた狐の面の影を、見つめた。

「アキ」

僕が最初にこの神社を訪れた頃だろうか、この狐の面は、割れていない状態のまま床に寝そべっていた。
「こん鳥居ばくぐると、運命ん人が見つかるっちゃん。ばってんね、気ばつけな、戻ってくれんくなるばい」
亡くなった祖母が、放った言葉。
その予言通り、僕は、その時、運命の人を見つけた。