部屋に戻るとイベリスはまだ寝ている。イベリスの寝顔は可愛らしく、全力で守ってあげたくなってしまう。

(こんな可愛い子に小さい頃から毒を入れていてしかも殺そうとするだなんて。一体、誰があのコックに指示を出しているのかしら。誰かに言われてやっているみたいだけれど……)

 アリアはまだこの城の中の人間関係をよく知らない。顔と名前をちゃんと知っているのはイベリス、モルガ、サイシアだけだ。

(きっとこの後出されるお昼の食事にも毒が入っているのよね。どうしよう、本人もしくはモルガかサイシアに知らせたいけれど、この体じゃ言葉も喋れない)

 アリアは考え込みながらしきりに毛繕いをする。イライラすると無意識でいつも以上に毛繕いをしてしまうようだ。


 厨房での恐ろしい秘密をアリアが知ってから数時間が経ち、昼になった。イベリスの元には先ほどの毒入りの昼食が届けられている。

(あぁ、どうしよう、これを食べたらまたイベリスの体調が悪くなってしまう。私がそばにいたって毎日これでは意味がないのよ。悪の根元を切り離さないと)

 アリアの心配をよそに、イベリスは届けられた昼食を口にしようとする。思わずアリアはイベリスのベッドにとびのり、イベリスが食べるのを邪魔した。

「アリア、どうしたんだい。いつもは僕の食事になど見向きもしないのに。一緒に食べたくなったの?」

 イベリスは不思議そうにそう言ってアリアを見る。思いが伝わらないアリアは後ろ足でタンッと叩く。

「どうしたの、何をそんなに怒っているの?これがほしい?ほしいならあげるよ、君は聖獣だから普通のウサギと違って何でも食べることができるからね」

(そうか、私がこれを食べて倒れてしまえば流石のイベリスだって食べるのをやめるわよね!まあ聖獣の私には毒なんて効かないけど、それでも演技でも何でもして阻止してみせる!)