◇◆◇


(ういやあぁぁ!止まらないいいぃぃ!ど、どうしたらいいの、どこまで走るのこれ!?)

 ものすごい勢いでメリアはずっと走っていた。ウサギの脚は脆いはずなのに、こんなにものすごい勢いで走っていても骨折もせず異常もない脚に驚きを隠せない。

(な、なんか目の前にすごいお城みたいなの見えてきた、けどどうしよう、このまま行くと壁にぶつかっちゃうよね?え、待って、やだもうすぐ壁に、ぶつかる!)

 城のような建物が見えたかと思うと、あっという間に目の前に壁が出現した。このままでは確実にぶつかって死んでしまうだろう。

(ヤダヤダヤダ、お願いだから止まって!)

 メリアが祈ると、おでこの金色の石と共に体が金色に光り、急ブレーキをかけたかのように脚は止まった。壁の本当にすぐ目の前で。

(と、と、止まった……よかった)

 はあはあと息を切らしながらメリアはほっとする。息を落ち着かせてから辺りを見渡すと、目の前には大きな大きな城のような美しい建物がそびえ立っていた。

(このお城はどこのお城かしら?王都のものではないわよね、見たことないもの)

 首を傾げながら上を見上げると、遠くで声がするのが聞こえる。その声はどんどん近づいてきた。

「さっき窓の外に金色に光る何かが見えたんだ。こっちの方だったんだよ」
「イベリス様、お待ちください。確かにこちらの方で魔力のようなものを感じました。ですが城の結界をすり抜けるなどあり得ません。一体何かわからないのですから気をつけてください」

 小さい男の子の声と大人の男性の声。メリアは耳をピクピクとさせると、声の主は目の前の壁の曲がり角を曲がってメリアの目の前に現れた。

 十歳くらいだろうか。美しい金髪に翡翠色の瞳、色白の肌は透き通るようで可愛らしいという言葉がぴったりの少年だ。着ている服は上質なものでとても気品がある。そしてその少年を庇うかのように歩くのは二十五歳前後だろうか、若草色のローブを羽織り、薄い紫がかった白く長めの髪をゆるく一つに束ねた男がいる。

「モルガ!見て!ウサギがいるよ!」

 少年がメリアを見つけて嬉しそうに笑う。そしてそばにいた男はメリアを見て両目を見開いた。

「これは……!イベリス様、お待ちください。この生き物はウサギのようでウサギではありません、聖獣です!」
「聖獣?聞いたことあるような気がするけど、それってすごい生き物なの?」

 メリアを見て二人はあれやこれやと騒いでいる。

(え、なんだろう、この人たち。どちらもあり得ないほど綺麗……なんかすごいこっち見て騒いでるけど、なん、だ、ろ……)

 突然の眠気に襲われ、そのままメリアは気を失った。