(サイシアの手はやっぱり暖かくて気持ちがいい。人柄と生き様が滲み出ている素敵な手だわ)

 心地よい暖かさにアリアが身を委ね、目を瞑りながら頭を静かにサイシアの手に傾ける。そんなアリアの顔は本当に幸せそうだった。

 頭を撫でていたサイシアの手がゆっくりとアリアの頬を優しく撫でる。別にそこはイーリスに触られていないが、アリアは気にすることなくその暖かさに顔を擦り寄せた。すると手がぴたり、と止まる。

 アリアが不思議に思って目を開けると、目の前にはとても大切で愛おしいものを見るような、優しくでも明らかに熱のこもった瞳があった。その顔は、まさに男の顔そのものだ。それを見てアリアは思わず心臓が跳ね上がり、一気に顔が赤くなる。

(こ、この顔は、まずい……ただでさえタイプなのに、こんな顔されたら……)

「あ、あの、サイシアの手は優しくて暖かくて心地よいから大好き。でも、こ、これ以上は、ちょっと、心臓がもたない……」

 アリアの言葉に今度はサイシアが顔を赤らめる番だった。そんなサイシアを見てアリアは体を金色に光らせ、聖獣の姿に戻って部屋を飛び出していった。

(俺は何をやってるんだ、あのままアリアが目を開かなければ危うくキスするところだった。あんな可愛い顔されたら、止まらなくなってしまう……相手は聖獣だぞ、好きになっていいものなのか)

 サイシアはそのばにしゃがみ込み、大きく息を吐いた。


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 前世では自分のことしか考えず追放され野垂れ死んだ追放令嬢は、心を入れ替えて誰かの役に立ちたいと願い生まれ変わった。その生まれ変わった先では大切な人たちのために力を奮い、愛されながら今日もイケメンに囲まれてモフモフなでなでされながら生きている。

 その不思議な生き物が騎士から静かにだが確実に熱烈なアプローチを受け続け、自分を拾ってくれた少年と少年を守る魔法使いに祝福されその騎士と一緒になるのはもう少し先のことだ。

「人間じゃないのに人間と恋愛して一緒になれるのかって?だって聖獣だもの!」