「俺にこんなことを言われるのは困るだろうけど……アリアがイーリスに捕まった時、俺はどうしてもイーリスが許せなかった。アリアをあんな目に合わせるなんてはらわたが煮えくりかえるようだった。それに」

 そう言ってサイシアは言葉に詰まる。そんなサイシアを見て、自分のことをこんなに思ってくれていたなんて、とアリアは胸の中に温かいものが広がっていくのを感じていた。

「それに、そもそもイーリスにアリアが触られたことがどうしても許せない。例え聖獣の姿だったとしても、あの汚らしい手がアリアに触れたと思うだけで吐き気がする。だから、その、俺の手で上書きさせてくれないか」

 最後まで話を聞いてアリアはキョトンとしていた。上書き?サイシアの手で?それはつまり人間で言う嫉妬といいうものではないのだろうか。そう気づいて途端にアリアは顔が赤くなる。

「もちろんアリアが嫌ならしない」

 困ったように言うサイシアに、アリアは混乱しつつも考えていた。

(えっと、別に、嫌ではないのよね。サイシアがそう望むのであればそれを叶えてあげたいし、それに)

 自分もサイシアに触れられたい、そう思う自分にアリアは戸惑い始める。

「い、嫌ではない、から、いいよ」

 アリアが静かにそういうと、良いと言われると思わなかったのだろう、サイシアは驚いた顔でアリアを見た。だがすぐに顔を赤らめて俯く。

「ありがとう。すぐに終わらせる」

 そう言ってサイシアは静かにアリアの両手でアリアの両耳を優しく包み込んだ。それからアリアの髪の毛に触れ、優しく撫でる。