「イベリス様」

 突然魔力を感じ声のする方を見ると、そこにはモルガとサイシアが風を纏って現れた。きっとモルガの魔法で駆けつけたのだろう、イベリス周辺で異変が起こるとすぐに駆けつけるこの二人にはいつも驚かされる。

「アリアの強い魔力が感じられました。何か起こったのかと思い駆けつけましたが」
「モルガ、アリアがリルの手を齧ったそうなんだ。でもリルが手を見せてくれない」

 イベリスの言葉にモルガとサイシアは顔を顰めてリルを見る。

「た、大したことはありません」
「齧られたと言うのであればお見せください。すぐに治癒魔法を施しますので」

 モルガの気迫にリルは降参し、静かに手を差し出した。

「これは……齧られた後ではありませんね。火傷のようですが。とにかく治療をしましょう」

 そう言ってモルガはリルの手に治癒魔法を施した。

「それで、一体何があったのですか」

 尋ねるモルガの横ではサイシアがリルへ厳しい目を向けている。そんなサイシアの瞳に怖気付いたのかリルは怯えるように言った。

「わ、私は何もしていません!お父様、なんだか具合が悪いので帰らせていただきます」
「リ、リル待ちなさい!」

 そそくさと退散するリルとそんなリルを慌てて追いかけるリルの父親を見送り、イベリスはアリアを床にそっと置いた。