(い、痛い痛い痛い!何よこの子!やっぱり可愛い仮面を被った悪女なのね!)

「こんなただのウサギみたいな生き物のせいで思い通りにならないなんて気に食わないわ」

 撫でるふりをしながらアリアをつねる力はどんどん強くなり、リルは痛がるアリアを見て嬉しそうに微笑んだ。

(やだ!痛い!離してよ!離して!)

 アリアが我慢できずにそう強く思った瞬間、額の石とつねられた部分が金色に光り、リルの手に火花が散る。

「ひっ!」

 リルが驚いて手を離すと、アリアは一目散にイベリスの足元へ駆け寄り、後ろ足をタンッ!と大きく床に叩きつけた。アリアの異変にイベリスが気付き、アリアを抱き上げる。

「どうしたの、アリア。何をそんなに怒っているんだ」

 アリアを抱きながらイベリスがリルを見ると、リルは片手を痛そうに抑えて涙ぐんでいる。

「リル、一体どうしたの」
「イベリス様!その獣が!私の手を齧ったんです!」
「なんと!うちの娘になんてことを!」

 リルは涙を両目いっぱいに浮かべてイベリスに訴えかける。それを聞いたリルの父親がアリアを見て怒りをあらわにした。

「アリア、本当にそんなことをしたの?」

 イベリスに聞かれたアリアは鼻をひくひくさせて顔をフイっと背けた。

「アリアは違うって言ってる。リル、痛めているならその手を見せてもらえないかな」
「そ、そんな見せるほどのものではありませんわ」

 見せれば齧った跡ではないことがバレてしまう。リルは必死に手を庇うふりをして負傷した箇所を隠していた。