イベリス殺害未遂事件から一ヶ月が経った。あの後すぐに新しいコックが任命され、イベリスへ料理が運ばれる前には必ず検査されることになっている。

(あれからイベリスが狙われることはないようだけど、まだ黒幕が捕まったわけではないしまたいつ狙われるかわからないもの。イベリスのことをちゃんと守っておかないと)

 今日もアリアはイベリスにモフモフなでなでされながら、しっかりと決意を固めていた。

「そういえばイベリス様、アリアとの友好関係がさらに強まったことでアリアの魔力にまた変化が見られます。そろそろ人化もあるかもしれませんね」
「人化?」
「言い伝えによると、聖獣はある程度の魔力変化の段階を経て、人の姿になることも可能なのだそうです。アリアもそろそろその時が近いのではないかと」

 モルガの説明にイベリスもサイシアも興味津々だ。

「アリアが人の姿になったらどんな感じなんだろうね!僕、すごく楽しみだな」

 目を輝かせて言うイベリスを見て、アリアは自分の体をしげしげとながめた。

(私、人の姿になれるの!?でもどういう姿になるのかしら?きっと一応女性よね?それとも聖獣っていうくらいだから性別不明なのかしら?まさか前世の姿と同じ、なんてことはないと思うけど……)

 アリアが鼻をひくひくさせて首を傾げると、アリアの額の石と体が急に金色に光り、体が変化し始める。

(え、え、待って、これはまさか人になる!?)

 イベリスたちは眩しい光に遮られアリアの様子がわからない。次第に光が収まっていき、イベリスたちが目を開くとそこには美しい一人の娘が立っていた。

 その娘は二十歳前後だろうか、この国では十七歳が成人なので見た目は成人していると言っていいかもしれない。髪色はウサギの姿の時と同じ美しいシルバーグレーで、肌は白く毛穴はみあたらない。目はアリアを思わせるようなクリッとした大きな瞳で、白いワンピースのような服を着て襟や袖、裾には青い糸で細かい刺繍が施されている。
 足元はモコモコしたショートブーツのようなものを履いていた。額の金色の石ももちろんあるが、前髪で隠れている。

(わ、気づいたら人になってた!)

 首や体をひねり、自分で自分の姿を眺めるアリアを、イベリスたちは呆然とした顔で眺めていた。