サイシアが何かに気付いたように走り出し、向かった先は厨房だった。そこにはコックが驚いた顔でサイシアを見る。

「サ、サイシア様!?一体こんなところにいらっしゃってどうしたというのです」
「お前、イベリス様の食事に何かしたのか」

 驚くコックにサイシアは鋭い瞳で問いただそうとする、しかしコックは突然目をぐるぐると回し頭を調理台に打ち付けた。コックは気が狂ったように何度も何度も頭を調理台に打ち付ける。

「何をしている!ばか!よせ!」

 サイシアが慌ててコックを止めようとすると、頭を打ち付けたコックはゆっくりと頭を上げ、おでこから血を流しながら不思議そうな顔でサイシアを見つめた。

「ここは、一体……?私は、誰でしょうか?」

 ぼんやりしながらサイシアに問いかけるコックを見てサイシアは驚愕する。

(まさか、錯乱魔法?記憶を無くしたか、しかしその魔法が使えるのは……)

 サイシアの胸に一抹の不安が広がった。