異世界へ行く方法というのがよくネットに出ているのだが、エレベーターを使っていく方法がメジャーらしい。というのもあのふわりとした上下に動く感覚が異世界へ行けそうな気がするからなのだろうか、そう思った俺は異世界へ行く決意をしてエレベーターの扉を開けた。

 何度も挑戦しているのでもう手慣れたものだ。利用者の少ない時間帯を調査済みの俺は、悠々自適にエレベーターに乗り込む。

 4,2,6、2、10階を押して、5階で女性が乗ってきたら話しかけないぞ。そして、1階を押して、10階に行けばいいんだな。俺は、ここで、女性が乗ってくることを期待した。女性と言っても若い女性なのか老婆なのか幼女なのだろうか。そんなことを考えながら、4階、2階、6階、2階、10階を押した。あまり住人が利用しない時間を選んだおかげでここまでうまくいったぞ。すると、5階で女性が本当に仁王立ちしていた。50代くらいの女性だった。その女性は乗ってくるのだろうか。きっとあの人は人ではないのかもしれない。内心ドキドキしていると――

 女性はドアの入り口を抑えて、俺にエレベーターから出るようにうながす。あと、もう少しだったのに――俺は異世界に逃げたいと思ったが、どうやらこのエレベーターは使うことができなくなってしまったようだ。


★解説
 何度も挑戦しているということで、男が色々な階を意味もなく行き来しているといううわさが住民の間で起こり、管理人の女性が苦情を言いに来たので、これ以上ここでエレベーターを使うことはできないということよ。
 
 残念ながら異世界ではないけれど、この建物には出入り禁止となってしまうでしょうね。ある意味禁断の彼の入れない場所となってしまったのね。