男は、急に眠くなった。疲れ切っていた。男はベッドに寝て、ぐっすりどろのように眠った。
 男は夢の中で幽霊を見た。やった、とうとう幽霊に会った。男はうれしくなった。
 男は目覚めた。なんだ、夢か。時計を見ると、もう昼過ぎだった。二日目は一日家にいることにしている。男は起き上がって、家の掃除をした。トイレやお風呂までピカピカにした。
 あらかじめご飯は買ってある。男は昼食を食べた。そうして、家と庭を回った。どこにも幽霊が出る気配などなかった。
 男は、居間に戻り、テレビを見た。それからまた家と庭を回った。男はそうして、ときどき家と庭を回り、居間でテレビでも見るのを繰り返した。男は今日もオールするつもりだった。
 夕方、男は仮眠をとった。やはり夢に幽霊が出てきたが、起きて、がっかりした。もう暗くなっていた。男は夕食を食べた。そうして家の中の電気を消し、懐中電灯とスマホを持って家と庭を回った。しかし、それらしきものが写っていたり、物音が入っていたりするものの、やはり、幽霊の仕業と確信の持てるものはない。
 居間で酒を飲んだ。そうしてお風呂。男は姿見を見、鏡に幽霊が写らないかと思ったが、写る気配はなかった。シャワーをあびる。こういう時、よくお化けがでるんだよな、と男は思った。しかし、幽霊は出なかった。男は酒を飲んだ。そうして時々家や庭を見回った。
 そうして男は丑三つ時を待った。午前2時をまわった。やはりお化けのたぐいはでない。
 そうして男は一夜を明かし、朝になるとぐっすり眠った。
 3日目は、外出をした。幽霊は出ない。それから数日がたち、男は仕事に戻った。ベランダや、裏口のカギをかけ忘れることもあった。まあ、なんにもない別荘だし、物取りにねらわれるとは思えない。幽霊は出ない。
 男はあきらめかけていた。やはり、幽霊なんて、そんな簡単に会える代物じゃない。しばらく様子見て、引き払おう、と男は思った。掃除もずさんになっていた。
 そうして男はいつものように家に戻った。夜、ベッドに寝た。うとうとしかけると、物音がした。それでもなんとも思わなかった。幽霊を探すため、物音をつきつめすぎたため、物音に鈍感になってしまったのだ。
 しかし、その日は別だった。天井の方だ。どん、どん、どん、と不審な物音がする。さすがに男は不審に思った。これは、今度こそは、と男は様子をうかがうことにした。
 天井の方、まるで、人が歩いているようにどん、どん、どんと男がする。男は跳ね起きた。間違いない。幽霊だ。幽霊に違いない。ただの物音じゃない。男は小躍りして喜んだ。幽霊だ、ついに幽霊がでたんだ。
 男は幽霊を脅かしてはいけないと思い、おとなしくベッドに寝ていた。
 それからも超常現象は続いた。お風呂に入ったら、長い髪の毛が落ちていた。ここには、短髪の男と、スキンヘッドの不動産屋しか入ったことがない。これは幽霊の髪の毛に違いない。男はおそるおそる髪の毛を取った。幽霊だ、幽霊の髪の毛だ。男は小躍りした。
 男は家に帰るのが楽しみになった。幽霊は一体いつあらわれるのだろう、と思った。
 あるとき、男は気づいた。冷蔵庫の中のものがちょっとずつなくなっているのだ。男は笑みを浮かべた。
 「幽霊のやつ、ずいぶん食いしん坊だなあ」