「どちらへ?」


「東口のホテルまでお願いします」


パーティーまでまだ時間があるし、ドレスアップは向こうでするつもりだ。


移動中も窮屈なドレスを着ておくなんて、私にとってはかなりの苦痛。



切っていた携帯の電源を入れると、いくつかの着信が入っていた。



履歴に表示された名前は全て同じ人物――私の許嫁、結城 貴史さんからの着信だった。



貴史さんは大手ファッション会社社長のご子息で、私の親の会社との繋がりも深く…私との結婚はずっと前から決まっている。


きっとパーティーのことで昨夜連絡してくれたのだろう。


私はすぐに折り返しの電話をした。






1コール、2コール、3コール…独特の機械音の後に、優しげな声が鼓膜を震わせた。



『もしもし?』



聞き慣れた貴史さんの声。


何を言おうか数秒迷った挙げ句、とりあえず分かり切ったことを質問した。



「昨日電話した?」



貴史さんは19歳、私は17歳。


友達のような感覚の付き合いをしている。



『したけど、今どこだ?』


「今は…ホテルに向かってるところ」


『了解。フロントで待ってるから早めに来いよ』



用件は着いてからのお楽しみ…ということらしい。私は「分かった」と小さく呟いて電話を切った。