* * *



静かな暗闇。ベッドの上で俺の胸に擦り寄ってくるのは、以前よりも少し痩せた洋子。


長い黒髪に、華奢な身体。


その細い首には――鎖と繋がる赤い首輪。


洋子がこの首輪に繋がってるいる間は、食事も行動も排泄でさえも、全てを俺が支配する。



「眠たくないの?」



優しく問いかけると、洋子はふふっと力なく笑った。



「寝たくないわ」


「何で」


「起きた時、私はきっと1人だから」



窓に打ち付ける雨の音が聞こえてくる。




「秀司、」


洋子が俺の名前を呼ぶ。



「明日の夜は来てくれるの?」


「来なかったら?」


「……昔のことを思い出すだけ」



今度は笑っていなかった。


暗闇に慣れた目でも、洋子の細かい表情を確認することは難しい。


ただ、彼女が自身の母親のことを言っているのは明確だった。


彼女の母親は出掛け先で他界し、残された彼女とその弟は厳しい父親とその再婚相手の手で育てられた。


俺が来ない日は、夜になっても帰ってこなかった母親のことを思い出すらしい。



「大丈夫、俺は死なないよ」


「…じゃあ、自傷行為はもうやめて」



洋子は俺の胸元に視線を向けてそう言った。


そこには酷く掻きむしった跡がある。


“自傷行為”…そうか、洋子はこれをそう呼ぶのか。