一条さんは私の嘘にすっかり騙されたようで、満足げに笑ってくる。
理不尽なことを言っているのは一条さんの方だと頭では分かっているのに、それだけで罪悪感が襲ってきて。
私も大概毒されているようだ。
「そこの棚に入れてあるから、取ってくれる?」
熱っぽい眼で頼んでくる一条さん。
私は慌てて棚を開き、中に入っていた錠剤を取り出す。
それからコップに水を入れ、薬と一緒に一条さんに渡した。
「水と一緒に飲み込む…感じです」
念のためもう1度アドバイスしておく。
一条さんは小さく頷き、私の言った通り薬を飲み込んだ。
何だかその仕草すら色っぽく感じてしまい、少しだけ顔を逸らす私。
「…これだと苦くないね」
水を飲み干した一条さんは、そう言って私を抱き締めた。
「一条さん…熱いです。寝た方がいいんじゃないですか?」
「まだ寝たくない」
「早く治さないとダメですよ」
「分かってる。だから栞に移してるの」
「……酷いですね」
「うん。俺は酷いよ」
そう肯定し、私を抱いたまま再びソファに寝転がる。
風邪じゃなく、一条さんの甘い香りが私に移ってくる気がした。
今日は不思議だ。
目の前の彼が、いつもより儚げに見える。
「…一条さん」
「ん?」
「消えないでくださいね」
自分でもよく分からないことを言ったことにすぐ気付いた。
でも一条さんは笑わない。
ぼーっと眺めるように私を見て、
「――…ごめんね」
聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。
熱に浮かされているのだろうか。
“ごめんね”って、何に対する謝罪なんだろう。
問おうとしたけれど、次の瞬間には規則正しい寝息が聞こえてきて。
私もさっき走ったせいか疲れが襲ってきて。
静かに、目を閉じた。