この人、このまま歳とったらまずい気がする。



一条さんはたまにこういうところがあるのだ。


私と出会うまでは一人暮らしのくせに料理もしたことがなかったみたいだし、トランプゲームの仕方まで知らなかった。


何に対してもあまり関心を持たず育ったみたいで、趣味なんかも特になくて。



変なところで経験不足っていうか、だからこそ私が毎回教えてきたんだけど。




「1度飲めたら次からも飲めるようになりますよ。食べ物を噛まずに飲み込む感じ…です」


「無理。飲まない」


「せめて飲もうとしてくださいよ…熱、下がらないですよ?」


「……飲んだらゴホービくれる?」


自分の体のことなのにご褒美って。


一条さんのことだから突飛なことを言ってくるんだろう。内容だけは確認しておきたい。


「…内容にもよります」


素直にそう言えば、一条さんは急に起き上がった。


あまりにも唐突すぎてビクリと体が揺れる。


そして、一条さんはそんな私を射抜くように見つめて。




「――…俺以外の男から貰った物、全部捨てて」



冗談のような。しかし冗談に聞こえない内容が私の耳に入ってくる。


やっぱり今日の一条さんは少し熱に浮かされているんだ。



だって――今まで見たこともないような表情してる。




「……どういうことですか?」


「ドレスくらい俺が買ってあげるから。ネックレスだって俺が買う」


「いや、そんなのいりませんよ」


「は?何で」


「何でって…いらないからです」



ドレスだのネックレスだの、突飛すぎて混乱してしまう。


私はそんな物が欲しくて一条さんと一緒にいるわけじゃない。







「……あの男からなら受け取るくせに、俺からは受け取らないの?」



ぞくりと何かが疼くのを感じた。


一条さんの眼が変わったのだ。殺される、と思ってしまうほど。



「あの男って、」


「あのドレスもネックレスも、パーティーにいたあの男から貰った物なんでしょ?」



図星をつかれて返す言葉が出てこない。


もしかして貴史さんに嫉妬してる…?いや、嫉妬なんて可愛いもんじゃない。


今にも誰かを殺しそうな勢いだ。



熱で弱っているくせに、これほど恐ろしい雰囲気を出すとは。