* * *



目の前に聳える一条さんの家。


バスから降り、途中でコンビニに寄ってスポーツドリンクとお弁当を買って、ここまで走ってきた。



こんなに走ったのは久しぶりかもしれない。


前のマラソン大会ぶり…かな。



私は少し考えてからインターホンを鳴らすより先にドアを開けてみることにした。



――ガチャリ、とあっさり開いたドア。


不用心にも程がある、そう思いながらもそろりと中へ入る私。


これじゃまるで泥棒みたいだ。



一条さんがいるとしたら、リビングか部屋だよね…?


私はまずリビングの方へ向かってみた。広いそこは、いつも私と一条さんが一緒にいる場所だ。



リビングで一条さんがいそうな場所と言えば…ソファ。







足音を立てないようにソファを覗き込むと、そこには案の定一条さんが眠っていた。



起こさないようにそっと顔に手を当てると、やっぱり熱い。


体調悪いなら悪いで素直に言えばいいのに。



ていうか、濡れタオルとか用意した方がいいよね?


お風呂場まで取りにいこうと立ち上がった――が、いきなり引っ張られたことによりふらりとソファの方へ倒れ込んでしまった。



「……ッ」

「栞?」



熱っぽい眼で私を見つめる一条さん。


いつもより色気が倍増している気がする。直視できず少しだけ視線を逸らしてしまう私は何なのか。



「ほんとに来てくれたんだ」

「……眠たかったら寝ていいですよ」

「ううん?栞が来るの待ってた」



……雰囲気も少しだけいつもと違う。


幼いっていうか…いや一条さんの場合いつも子供っぽいんだけど、そういうんじゃないっていうか。


自分でもどう表現していいか分からない。







「症状は熱だけですか?」

「ん。」

「病院…は行ける状態じゃないですよね。じゃあ私が薬局で何か買ってきます」

「…薬?」

「はい。あとコンビニで色々買ってきたんで、お腹が空いたら食べてください」

「やだ。」

「え?」

「…薬、苦い」

「……」



あれ?この人何歳だっけ。


私より年上なはず。


こんな大きい体で薬苦いなんて言われても…!




「大丈夫ですよ。粉薬じゃなくて錠剤買ってきます」

「やだ。」

「何でですか…」

「あれ、どうやって飲むか分かんない」

「み、水と一緒に流し込むんですよ」

「わけ分かんない」



こっちだってわけが分からない。


薬の飲み方知らないんだ…。苦いって言ってるから粉薬は飲んだことあるんだろうけど、錠剤は飲んだことないとか…?