そんなことを考えながら鉛筆をとった時―――制服のポケットが震えた。


何の飾りも付けていない質素な携帯の画面には、“一条さん”の文字。


噂をすれば何とやら…。メールボックスを開けば、新着メールが1件。




――――――

From:一条さん

Sub:(non title)

今何してる?

――――――





いきなり何なんだろう、この人は。




返信しなかったら後で拗ねるし、適当に返しておこう。





――――――

To:一条さん

Sub:(non title)

部活です

――――――






すると、数秒後にまた返信が。





――――――

From:一条さん

Sub:(non title)

寂しい

――――――





――――――

To:一条さん

Sub:(non title)

知りません

――――――





――――――

From:一条さん

Sub:(non title)

疲れた。癒して。

――――――








あ、これは用もないのに気まぐれでメールしてきてるパターンだ。


部活で忙しかったってことでやっぱり無視しよう…。



携帯をポケットにしまい、どんな絵を描こうかなと想像を膨らませる。


この前は白がテーマだったし、今度は黒で――『ブルルルル…』ポケットの中の携帯が再び震える。



溜め息混じりに携帯を開くと、予想通りそこにはまたもや“一条さん”の表示。


でもさっきと違うのは、それがメールではなく電話ということだ。







私は短く溜め息を吐いてから静かに美術室を出る。真剣に絵を描く野薔薇の邪魔をするわけにはいかない。


放課後のひんやりとした廊下に出た私は、通話ボタンを押した。



「……もしもし」


典型的な電話の挨拶。そんな私に素っ気無さを感じたのか、クスリと笑う一条さんの声音が電話越しに聞こえる。


でもそれはいつもとは違い、少々疲れを孕んでいた。



「……大丈夫ですか?」


一条さんはいつも余裕たっぷりだし、弱っている様子なのは珍しい。



『大丈夫じゃないって言ったら会いに来てくれる?』


「…それはないです」


『冷たいなぁ』


この人本当に大丈夫だろうか。いや頭的な意味ではなく。



「今どこにいるんですか?」


『まいほーむ』


「え……仕事は?」


『まだ全部終わってないけど帰らされちゃった』



帰らされちゃったって…そこまで弱ってるってこと?


普段どんな仕事でも涼しい顔して済ますくせに、今回はそこまでキツかったのだろうか。