彼による私への接し方は決してノーマルなモノじゃない。


時には意識を失わない程度に首を締めたり、噛みついてきたり、私が苦しむことも平気でしてくる。



でもその後の接し方は溶けるほど優しくて、それがクセになる。


甘い台詞も愛の言葉も何てことないと言わんばかりに耳元で囁く。



それが本心かどうかは定かじゃないけれど。




「ちょっとちょっと~あんたの会社また特集されてるよ」



ここは私の学校の美術室。


美術部の私…と、目の前で雑誌を読んでいるのは同じく美術部の野薔薇。



この学校の美術部は顧問も毎日いるわけじゃないし、今は私と野薔薇の2人だけだ。



野薔薇は容姿端麗かつ文武両道。


可愛いというよりは美人系統だ。


一見キツそうに見えるけど話すと結構気の合う私の友達。



「……そう。」


「反応薄いわね。もしかして隣のページにSOROの特集されてるのが気に入らないの?」


「当たり前。ライバル会社と仲良く隣同士って…」


「実際仲良いじゃない。一条さんと」


「ぶっ…!」



思わずさっき自動販売機で買ったお茶を吹いてしまった。






そう、野薔薇だけには一条さんとのことを話しているのだ。



野薔薇は口が堅いし、良い相談相手にもなってくれるかと思って打ち明けたんだけど…。




「何よ、照れることないのに」


「私と一条さんの関係がどうだろうと会社同士の関係は変わらないよ…社長はお父さんなんだし」


「つまんないわね」


「楽しまれても困る」



野薔薇は雑誌を置き、自分の首筋をトントンと軽く叩いてみせた。



「ココ。歯形ついてるわよ」


「……っ、」



慌てて制服の襟を立てて隠してみようと試みる。……笑われそうなのですぐに戻した。


そんな私を見て野薔薇は困ったような顔をする。



「随分過激なのね。一条さんって」


「まぁ…ね。私もあの人が考えてることはよく分からない」


「そう?私、話聞いてるだけでも栞が心配なんだけど」


「……何で?」


「だって怪しくない?騙されたり利用されたりしないでよね」



野薔薇は心から心配してくれている。私にもそれは分かる。



でも。


「なんか、離れられないんだよね…」




自覚していないふりをする。


離れられないんじゃない。離れようとしていない。



何だかんだで私は子供じみた反抗をしているだけだ。“伊集院”の家に縛られたくない。


一条さんと関係を持つことが、ライバル会社の社長と関係を持つことが、私のお父さんへ対する抵抗でもある。



お父さんが嫌いなわけじゃない。


ただ、何もかも決めつけられたまるで飼い犬のような人生を送りたくない。



「……まぁ、私はそこまで口出しするつもりないわよ。栞は栞のしたいようにすればいいもの。ただし辛いことがあればすぐ言うのよ?その一条さんって奴しばいてやるから」



そんな私の思いを知ってか知らずか野薔薇はそう言って美術部の活動を始め、それ以上話し掛けてこなかった。


ただ絵を描くだけの地味な部活だけど、この静かな空間は好き。