「…あの、ドレス…」


「別にいいじゃん。借り物でしょ?」


「あー…いや、今回は貰い物で…」



曖昧な笑顔をつくりつつ視線を逸らすと、唐突にネックレスを引っ張って外された。


あまりにも強引で首に一瞬痛みが走るが、一条さんは知らん顔で手元のネックレスと私のドレスをマジマジと見つめる。



「このネックレス、そのドレスとセット?」


「…セットかどうかは知りませんけど…」


「同じ人に貰ったのかって聞いてるの」


「は、はいまぁ…」



私の返事を聞いた一条さんは眉を寄せ、数秒後舌打ちと同時にネックレスを床に落とした。


こういう時、彼が何を考えているのか全然分からなくなる。





「脱いで」


「………はい!?」


「着替えは明日の朝までに用意させとくからシャワー浴びておいで」



どうやら一条さんは私の意見など聞かずここに泊まるつもりのようで、再び私のドレスを脱がせにかかってくる。



「ちょっ…私はまだパーティーが…」


「どうせあの男と喋るだけでしょ」



何だか侮辱されたように感じるけれど、貴史さんと話すだけなのは確かだ。


私は親の都合の為に出席しているだけ。



そんな自分が嫌で、ライバル会社の社長と関係を持つのは親への些細な抵抗のつもりだった。



「ねぇ栞、男のカンもなかなかのもんだよ?」


「は…?」


「ネックレスなんかプレゼントしちゃってさー…首輪のつもりなのかなぁ?」



一条さんの瞳はあの時と同じ、何もかも見透かすような、どこか不気味な色を孕ませていた。



「栞を縛る鎖は全部俺が処理してあげる。」




例え家庭での桎梏から逃れられたとしても。


彼自身からは逃れられない、そんな気がする。