「で、SOROの社長は息子になったんだろ?しかもまだアラサーの奴。チャンスなんじゃねぇの」



チャンス――つまりSOROを蹴落とすチャンス。


なってから数年とはいえまだ若くて不慣れな人が社長のうちに差をつけてしまえという話。


まぁ、私にはあの無愛想なお父さんの考えていることなんて分からないし、そもそも会社のことに口を出せる立場じゃない。











「――うちの会社がどうかしましたか?」



と。考え事をしている間に貴史さん以外の人から話しかけられるなんて思ってもいなかったせいか、思わず心臓が飛び出そうになった。







否。“貴史さん以外”じゃない。“この男”だからこそびっくりしたのだ。




スタイル抜群、眉目秀麗、表向きだけは温厚篤実――そして誰よりもスーツが似合う彼。




「久しぶりだね、ご令嬢さん?」



クスリと薄笑いを浮かべるその男は昨夜も会った―――SOROの若社長、一条さんだった。



ふと今朝の書き置きを思い出し、ようやく分かった。“また会おうね”の本当の意味を。


私は土曜の夜だけ一条さんの家に泊まって日曜の朝帰るから、“また”とは“来週”の意味だと思っていたけれど。



「お、久しぶりです…」



このパーティーには第一回目にしか来ていなかった彼がここにこうして存在している。






私は口角を引きつらせ、どうすれば隣の貴史さんと共にこの場を去ることができるかどうか一生懸命考える。



しかし一条さんはにこやかな笑顔で私の隣の席に座り、余計に焦る状況となってしまった。


私たちの曖昧な友好関係は貴史さんどころか他の誰にも秘密で、バレてはならない。



ライバル会社の社長の家に泊まっているなんて世間体が…というか親に知られたらマズイ。


それは一条さんも理解しているし、隠すことは了承してくれたはず…なの、だが。




「そっちの人、誰?」



思いっきり親しげな口調で話し掛けてくる。