────二度と話しかけないでね。
確かにそう言ったはずだった。
結構キツく、冷たく言ってしまったから怒ったのかもしれない。そう思ったけど────…


「あ、いたいた。探したわ」


普通に、面白そうに、私がいる教室に入ってきた性格の悪いマヤは、私の方に向かってそう言った。

やっぱりマヤは問題児らしく。「なんでマヤ?」「お願いだから問題起こさないでよ…」「転校生と知りあい?」とチラチラと声が聞こえて。



マヤは私の座っている席の──前の席に当たり前のように座ると、「なんだっけ、名前」と首を傾げる。


探したって何?
やっぱり怒ってる?
でも顔つき的には怒ってそうではなく。


「…えっと、なに?」


少しだけ眉を寄せながら言えば、マヤは思いついたように「あ、そうだわ」と笑った。


「おめめちゃん。弥生に言われてたよな?」


……おめめ?
え…?
名前のこと?
おめめじゃなくて、瞳なんだけどなぁ。


「…瞳です、」

「瞳?」

「はい」

「なんだおめめじゃねぇんだ」


クスクスと笑うマヤは、意地悪く顔を傾けた。


「ごめんね?」


と、心がこもってそうにない謝罪を言うと、スマホを取り出した。


「番号教えて」

「え?」

「ん?」

「え、…なんで番号?」

「なんでって知りたいから? 知りたくなかったら聞かなくね?」


いや、それは、そうだけど。
この人は二度と話しかけないでねって言ったの、忘れたのかなぁ。


「……教えるのは無理かも」

「は?」

「だって、悪用されそうだもん。あなた性格悪いんでしょ?」


私の言葉に、一瞬間を置いて、「ははっ…」と声を出して笑ったマヤという男は、「正解っちゃあ正解」と、取り出していたスマホを机の上に置き。


「俺、真耶(まや)って言うんだけど。さっきはほんとごめん。せっかく拾ってくれたのに、感じ悪いこと言っちゃって」

「…」

「スマホ投げてきた時近くにいたって?怪我なかった?」

「……あの、」

「瞳ちゃん彼氏いるの?」

「あの」

「まあいてもどうでもいいんだけど」

「…」

「やっちゃえばいいだけの話だし」

「…」

「俺ね、瞳ちゃんのこと気に入ってさ」

「…」

「今更、流風が好きとか言わないよな?」


よく分からないことを永遠と話す真耶。


「…意味わからない、そもそも流風って人と会ったことないし。気に入ったって、私あなたと今日初対面で…」

「番号教えてくれるまで」

「え?」

「仲良くしような」



────関わらない方がいいよ。

遠くで、菜乃花が見てるのが見えて、菜乃花の言葉を思い出した私は──…