「瞳ちゃん、おはよう」

とても明るい挨拶だと思った。
そう思ったのは昨日と同様、にこにこと優しく笑っていたから。今日も白いベストが似合うミオくんは、朝の下足場で私を見かけ声をかけてくれたらしい。


「あ…ミオくんだよね? おはよう」


微笑みながら言えば、ミオくんは「昨日はありがとね」とお礼を言ってきて。


「ううん、そんな、どうすればいいかなって思ってたから。ミオくんが届けてくれてよかった」


菜乃花の言う通り、本当に優しい人なんだなと思っていると、「弥生(みお)、そいつ誰?」とどうでもよさそうな声がミオくんの後ろから届いた。

どうやらミオくんの影になって見えなかったらしく。


「ほら、この前流風がスマホ投げただろ。お前が拾わねぇせいでこの子が届けてくれたんだわ」


ミオくんが後ろを向いたおかげで、もう1人が見えた。その人を見て、あ……と心が驚く。だってその人は瀬戸流風がスマホを投げた先に居た人だから。


黒髪に、長身。目は細いのに二重で切れ長で。その切れ長の目が私を捉えた時、かすかに笑ったように見えた。


その笑い方は、明るい笑みをする弥生くんとは違い。
悪巧みを考えるような…子どもみたいな笑み。

──確か、マヤって呼ばれてた人。


「ああ……。流風のスマホ拾うとか頭大丈夫?」


顔を傾け、意地悪く笑うマヤに、一瞬にして苛立ちを覚えた。いやだって、普通、初めて話すひとに「頭大丈夫?」とか言わなくない?


「あいつすぐキレちゃうから。関わると危ねぇよ?」


だけどそれは私を考えての発言だったらしく。


「……あんまり、そういうの分からなくて」


実際、転校してきたばかりだし。曖昧に笑いながら言えば、どうでも良さそうにマヤは「ふうん…」と見下すように目を細めた。

マヤという人は、いちいち表情を変えるタイプの人らしく。


「もしかして流風に気にあったり?そうだったら頭悪すぎ。見る目ないねあんた」


嫌いだ、この人。
普通にそう思った。
瀬戸流風と仲が悪いのか知らないけど、私まで巻き添えにしないでほしい。


「おいコラ、瞳ちゃんにお礼言う立場だぞお前は。ごめんね瞳ちゃん。ほんとこんな性格だから…」

「ううん、いいの。でももう、二度と話しかけないでね。とっても気分悪いから」



初めはミオくんに、途中からマヤに目を向けて言えば、今度のマヤはまん丸とした目に変わり──


「またねミオくん」


笑ってミオくんに言えば、ミオくんも驚いたような顔をしていたけど。「うん、また話そ」といつも通りの優しい笑みを浮かべていた。