そこには、飛び散ったらしい窓ガラスの破片が廊下に落ちていた。そしてその近くには、──スマホが置いていた。
そのスマホも窓ガラスのように画面が割れており。多分、スマホが外から飛んできて廊下の窓を割ったのだと思う。

何事かと、窓の外を見た。
そこには向かいの校舎の屋上から投げたらしい人物がいた。そう思ったのは向かいの校舎から見えるのはその人だけだったから。
あの人は誰かと目を細めた。だけど逆光でよく見えなくて──。よく見えないけど下半身は見える事が出来た。制服のズボンを履いていることからして、ここの学校の男子生徒らしい。

あの人がスマホを投げたらしい。どうして。
そう思ったのもつかの間、「──ぶっ殺すぞてめぇ!!」と、怒鳴り声が聞こえた。
その怒鳴り声は向かいの校舎の屋上から。つまり、スマホを投げた男子生徒が発している声。

怒っているらしい。
何事かと、顔も見えない男子生徒を見上げていると、


「あぶねー」


と、今度は私の近くから声が聞こえた。
その声も、男の人の声だった。
屋上の方から近くで聞こえた方へと目を向けると、そこにはジャリ、と割れた窓ガラスを踏む男子生徒がいて。
割れた窓ガラスに近づく男子生徒は、向かいの屋上の方へと見上げる。


「あぶねーだろ、ルカ」


私の近くにいる男子生徒は、また面白がっている声を出した。
スマホを投げたルカって人と、この人は知り合いらしい。
逆光で見えないルカとは違い、近くにいる彼は良く見えることができた。黒髪に、二重の瞳。二重だけど大きくはなく切れ長の瞳をしていた。鼻は高く、唇も薄い。背は──私より20cm以上は高い。つまり180cm近くはある。

彼を観察していると、屋上にいたルカはどこかへ行ってしまったらしい。気がつけばいなくなっていた。


「バカなやつ」


ポツリと呟いた彼は、割れた窓から離れ、そのまま廊下を歩いていく。彼もどこかへ行くらしい。
背の高い黒髪の彼がこの場から姿を消した時、「──やば、」と、私と同じようにこの現場を見ていた女子生徒達が口を開いた。


「マヤとルカ。ほんと、仲悪いよね、あの二人」


──マヤとルカ。
どうやらここにいた黒髪の彼は、マヤと言うらしかった。