お父さんは『大雄を忘れるなんてなぁ』と言いながらも、ルンルンで台所に向かう。

「あ……あ、あんた……」

「このコンソメスープも絶品だなぁ……うん! このサラダのドレッシングも最高だ!」

「いや~、そんなに褒めてもらえて嬉しいよ。この家が自分の家だって思ってすごしてね」

 台所から顔を出してお父さんが言う。

「はぁい! 僕も嬉しいなぁ!」

 ずっこけそうになる光。

「じ、自分の家って! 一体どこの部屋で寝るつもり!?」

「屋根裏部屋を、借りる事にするよ」

「えっ」

「あそこはなかなか見もの(・・・)だった。僕から見てもすごいものがわんさかだ」

 屋根裏部屋はおじいちゃんのアトリエだ。
 本棚には本がびっしり、不思議なアイテムもたくさんある。

「だめーー! なんで、あんたが! ダメだよ!」

「こら! 光! 意地悪しない!」

「い、意地悪なんかじゃ……(だって、だってこいつは悪魔王子で……あそこは大事なおじいちゃんの部屋で……私がもう少し大きくなったら……あの部屋を私の部屋にしようって思ってたのに……)」

 今はお父さんの隣の部屋が光の部屋だ。
 中学生になったら、という約束だったのにと光はくちびるを噛む。

「ダメなのに……」

 こんらんする事ばっかりで、とうとう光の目から涙があふれる。

「あ……」

「おじいちゃんの部屋……なのにぃ」

 悪魔王子は、立ちっぱなしで泣き始めた光の元に来て指で涙をそっと拭いた。

「……泣かないで」

 顔が近くで、悪魔王子の目がキラッとした。
 真剣な顔に、ちょっとびっくりでドキッとした光。