これだけは持っていなきゃと、おじいちゃんのステッキだけは! とトートバッグがら出そうとするとビタッと後ろに何かの気配がはっきりわかった。
『お・れ・は・お・に・だぁああああああ』
地の底から唸るような不気味な大声。
「ぎゃあああああ!!」
巨大な鬼の顔!
顔だけの鬼。
牙にはべったり血がついた鬼の顔が、光の背後に現れた!
恐怖で思わずステッキで鬼の顔を殴った瞬間に、光は走り出す。
『待てぇえええええええ』
「ひぃ! いやぁあ!」
転がるようにして光は走る!
追いかけられたら最後だよ
逃げて走ってどこまでも
追いつかれたら食べられる
骨も残さず食べられる
追いかけ鬼に見つかれば
最後死ぬまで追いかけらーれる
あの恐ろしい歌が頭を巡る!
『くでやるぞぉおおぐでやる』
鬼の頭が何か叫んでる!
喰ってやる! と言っているのだ!
「たすけてぇ」
恐怖で声がかすれて、息にしか聞こえなかった。
「(助けて助けて! 誰か助けて!)」
運動神経のよい光は、足も速い。
頭だけで転がってくる追いかけ鬼にも負けずに走る! 走る!
途中で木の根や急な坂道があっても暗闇でも、光は走った。