薄暗く、寒い秋の風。
 光はブルッと震えて、厚手のパーカーのチャックを閉めた。

「(家に帰ろう。こんな暗い場所から離れて、あったかい家でお父さんのオムライス食べよう)」

 虚しくて涙が出てくる想いだ。

「あ~あ! バッカみたい」

 一人なのにわざと大声を出した。

「ずーっと準備してたのにさ~あははは! 嫌になっちゃう!」

『い・や・になちゃう』

「そうそう! 不思議な友達なんかできるはずないよね~」

『ふ、し、ぎ』

「うん……あはは……えっ……?」

「(一体誰の声……?)」

 坂道を歩く光の心臓が嫌な音をたてる。
 後ろに何か……いる?

 じゅるじゅっるるる

 はぁはぁ……

 じゅるじゅっるるる……はぁはぁ……。

 大きな何かが息をする音が聞こえる。

 よだれをすするような気持ちの悪い音。

 そしてふわぁっと光の首元を撫でる……臭い臭い生ぬるい風。

 何かが腐ったような、排水溝のようなニオイ。 

 ゾクゾク! と全身に鳥肌が一瞬でできる。

 なんだろう……なんだろう……
 でも絶対に、振り向いたらいけない。

 ガクガクと恐怖で足がもつれそうになる。