「寧音ちゃんは臆病になってしまっただけ。本来は真っ直ぐで、強い女性じゃないか」

 ふっと影が伸びてきて顔を上げると、理事長もこちらを覗き込んでいた。

 酸いも甘いも数々見抜いてきた鋭い眼差しを突き付けられ、喉が締まる。買いかぶりだって言わせない。

「月見里先生ーーいや、寧音ちゃん」

 呼び名を戻す。強張る私の両肩へ手を置き、より顔を近付けてきた。

「僕は昔から君を可愛いと思っている、いもう……」

 『妹みたい』と言い終える前、ノックもなくドアが開いた。私と理事長はそのままの姿勢で訪問者を迎えてしまう。

「え、あ、あれ? 理事長?」

 壬生先生は私達より動揺しつつ、すかさず後ろ手でドアを閉める。

「壬生先生、保健医に何かご用でも?」

 理事長は後ろめたさなど微塵も感じさせない対応をするが、私は俯くしか出来ない。

「あ、その、月見里先生にお願いがあって」

「お願い、ですか? お二人は交流があるのですか?」

「交流?」

「月見里先生と親しいのでしょうか?」

 こんな言い方をされては誤解を解くどころか混乱を深めるだけ。さすがに口を挟む。

「壬生先生からは女子レスリング部のお手伝いをお願いされてます」