「生徒ひとり一人と向き合う為にも、部活動の指導を外部へ委託するのはどうでしょう?」

 『文武両道』を校訓に掲げる学園はあらゆる分野で活躍する生徒を輩出しており、その実績によって全国から将来有望な人材が集まる好循環にある。
 結果を出し続けていくには専門者の知識と経験を必要とする段階(ステージ)という訳か。

「特にレスリング部はここのところ行き詰りを感じているのでは?」

 提案者がピンポイントで提起し、壬生先生へ会話のバトンが強引に渡される。

「いやぁ、この間の練習試合は負けてしまいましたが、それも良い経験になったと思いますし」

「星宮の女子レスリングといえば常勝でないと物足りないんですよ。未経験の壬生先生では荷が重いなではないかと心配しています」

「ーーすいません」

「それからレスリング部の予算を他の部へ振り分けるのも一考して頂きたいですね。実績に見合った割り当てをお願いしたい。壬生先生はどうお考えで?」

「いや、その、まぁ」

 壬生先生の声が明らかに沈む。

 部活動で拘束され本分に支障をきたすという話の筋がいつの間にか変わってしまう。気の毒そうに眺める目はあれど、壬生先生を庇う同僚は現れない。

 するとここで理事長が動いた。副教頭からマイクを引き継ぎ、全職員へ切れ長な瞳を流す。

「私は伝統あるレスリング部の顧問を快諾して下さった壬生先生を応援しておりますよ。専門コーチの件、予算の配分については早急に検討しましょう」