「はい。これでいい?」

 「は?」

 「眠くなったでしょ」


 しかし、あたしの予想はあっさりと外れ。玲哉はあたしの身体を軽々退かすと、役目は終わりだとでも言いたげにニッコリと微笑んだ。続けて後ろの棚に置かれた薄手の毛布を取り出し始める。


 「どういうことよ?」


 思わずツッコんでしまった。だって、あたしとあれだけくっついておいて平然と。ピクリとも反応を示さないし。無反応。


 普通、恥ずかしがるなり、嫌がるなり、テンションが上がるなり、襲うなり、逃げるなりするでしょうが。

 どうして平気な顔をしているの?あり得ないでしょ。


 「あ、カーテンも閉めとくね」

 「はいはい」


 あまりの反応のなさに虚しくなり、あたしは溜め息を吐きながら渡された毛布を受け取った。


 もういいや。バカなことはヤメよう。何をやっても無駄。玲哉はきっと女じゃなく男が好きなんだ。
 
 きっとそう。そう思っておこう。その方がまだマシだ。


 「じゃ、寝よっか」


 あたしの複雑な気持ちも知らず、玲哉はカーテンを閉めると自分の毛布を抱えてあたしのところに戻って来た。頗るご機嫌だ。あたしの気持ちも知らないで。


 「はぁー。玲哉ってほんと子供だね」


 少し薄暗くなった部屋の中。半ば呆れつつ、毛布を足に掛ける。その瞬間、背後から玲哉の手が伸びてきて、あたしのお腹を抱き締めた。なぞるように、ゆっくり、玲哉の唇が耳を掠める。


 「次は千秋が抱き枕になる番ね」

 「えぇっ⁉」


 突然の誘いに思わず間抜けた声が出た。驚きすぎて体が硬直。それを見て玲哉はケラケラ笑う。


 「やーい。引っ掛かった!」

 って悪戯をした子供みたいにあたしをおちょくりながら。


 「ちょっと!からかわないでよ!」

 「先にからかったのは千秋の方じゃん」

 「あたしはからかってない」

 「じゃあ、俺もからかってない」


 ムキになるあたしに玲哉はケラケラ笑いながら言う。いや、実際はどっち?なんて心がグラグラ揺れる。


 でもまぁ、笑顔の玲哉から察するに多分冗談だ。いつもの子供っぽい冗談。


 「まったく。あたしは本気で玲哉との仲に革命を起こそうとしたのに」

 「なんで?革命なんかする必要ないじゃん」

 「あるよ。あたしは本気で好きなんだもん」

 「俺だって本気で好きだよ」

 「もういいって冗談は」


 懲りずにからかってくる玲哉に言い返し、あたしは横になって玲哉の方に身体を向けた。玲哉は機嫌が良さそうにあたしを見て笑ってる。

 結局、ドキドキしたのはあたしだけかよ。悔しい。革命返しをされた気分だ。


 「はぁー。ショック」

 「なんで?」

 「女として見られてないから」

 「見てるよ」

 「はいはい。もういいから」


 適当な返事をする玲哉に腹が立って甘えるように身体を擦り寄せる。抱き枕にしていいって言ってたし。遠慮なく胸に顔を埋めた。

 
 それでも玲哉は無反応。あーあ、あたしばっかりドキドキしてる。心臓バクバクじゃん。壊れそう。なんて思った矢先にふと気付く。あれ?あたしじゃないぞ。と。