シャツの裾から手を滑り込ませ、怠そうに顔を歪ませる。その際にチラリと見える筋肉質な腹筋。
 人はそれを腹チラぁぁぁぁぁ!と呼ぶ。


 「真兄ぃぃぃ!今すぐその腹チラをやめて。キュン死する」

 「は?意味わかんねーことで騒ぐなよ。夏芽《なつめ》。それより早く問題を解け」


 先程からあたしに腹チラを披露している真兄こと、真一《しんいち》はあたしの家のお向かいに住む5歳年上の大学生だ。

 真兄にはここ最近家庭教師をして貰っているんだけど……。


 「だって、先生……」
 「だから先生じゃねーし」


 真兄はあたしに冷たい。


 モノトーンな色の家具で統一された、シンプルな真兄の部屋の中。 あたしが中学生の時に持ち込んだ赤色の座椅子だけが異様に目立つ。


 その座椅子の上に座って、シャーペンを指でクルクル回すあたしに真兄は冷たい眼差しを向けてくる。


 刺々しい言葉を浴びせられるのも秒読み3秒前かも知れない。


 「真兄、昨日の学園ドラマは見た?秀才な王子様と平凡な女の子が恋に落ちてね……」
 「興味ない」


 気まずい空気を変えようとあたしが始めた話も真兄はあっさりと終わらせる。