「え? おい、どうした?」

 「あたし……、あたし……、もう無理だよっ! 優太…っ。 今すぐ抱いてぇぇぇー!」

 「えぇっ? ちょ、おまっ……、何言ってんだよ。 バカ」


 優太はあたしの発言にあり得ないくらい焦ってる。

 でも、あたしを引き剥がす素振りも見せずに抱き締めてくれるところはやっぱり優しい。

 だから甘えちゃうんだ。優太は優しいから……。


 「もう我慢出来ないの! 忘れさせて……っ。 お願い…っ」

 半分本気、半分自棄だけど。

 もう忘れたいの。でも、忘れられないの。だから忘れさせて欲しい。

 廊下にいる生徒の視線をヒシヒシと感じるけど、気にしない。いや、気にする余裕なんてない。


 「おーい、優太ぁ。 抱いてやれよ~」
 「泣かすぐらい焦らすなんてお前、顔に似合わず鬼畜~!」
 「いや、違うし」

 近くにいた野球部の人にからかわれた優太は慌てて否定している。

 優太らしいと言うか、何と言うか……。律儀だよね。優太って。


 「あー。 とにかく、ここじゃちょっと……」

 そう言って優太はあたしの手を引いて廊下を歩き出す。


 「おっ! 監督に “優太は男になりに行きました” って言っとくわ~」
 「だから違うって」

 溜め息交じりに野球部の男の子に手を振った優太は、そのままあたしを連れて廊下を黙々と歩いていく。


 ドコに行くんだろう?そう思いながらも黙って優太の後を付いていく。

 振り返らずに歩く優太。自然と目が背中に向かってしまう。

 優太の背中は広くて、ほんと野球少年って感じ。シャツ越しでも筋肉があるって分かる。